作曲の見岳章は、82年の「すみれ September Love」のヒット曲で知られる一風堂のメンバーで、キーボードとヴァイオリンを担当していた。その他にも作詞・秋元康とのコンビ作としてとんねるず「雨の西麻布」、おニャン子クラブ「恋はくえすちょん」などのヒット曲も手がけている。
城之内早苗は、おニャン子クラブ唯一の演歌歌手で、「あじさい橋」はオリコン総合シングルチャートで演歌史上初めてとなる初登場1位を獲得した曲として記録に残る。弦楽器のトレモロのイントロに続きコーラスで始まる、なんとも清潔感のある淡い恋をイメージしたような演歌で、若いおニャン子世代以外のファン層を獲得することに成功した曲と言えるだろう。
そう言えば、箱根湯本駅近くの早川にかかる赤い橋は、確かあじさい橋ではなかったか。暦を6月にめくるとき、今年はこの曲が頭の中に響いてきた。城之内早苗は、現在も現役で演歌を歌い続けている。「あじさい橋」に続く2枚目のシングルは秋元康作詞、後藤次利作曲という、どちらかと言えばポップスをイメージさせるコンビによる「流氷の手紙」で、この曲も演歌ファンには人気の曲だった。また、森高千里作詞による「酔わせてよ今夜だけ」、「幸せになります」なんて曲を歌っていたことも思い出される。「あじさい橋」もまた、季節のめぐりの中で梅雨の時期自然に口をついてでる、時を超えて人々に愛される昭和歌謡である。
文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫