25.06.12 update

昭和のヒーロー長嶋茂雄さんが逝き、なぜか突然よみがえった同時代のヒーローの歌、「月光仮面は誰でしょう」


 1974年(昭和49)「我が巨人軍は永遠に不滅です!」という言葉を残して現役を引退した長嶋茂雄さんが、永眠した。昭和100年にして戦後80年を経て、日本のヒーローがまた一人いなくなった。その長嶋茂雄さんが巨人軍に入団した1958年(昭和33)、当時のヒーローはわずかに普及し始めたテレビ受像機の中にいた。我ら団塊の世代の子供たちの憧れ「月光仮面」。強くて優しく颯爽として月よりやって来た使者は、全身白づくめ、白いマントのヒーローだった。

 小学生低学年で10歳にも満たない頃の遠い記憶のはずだが、今でも鮮明に覚えていて口ずさむことができる歌はそうあるわけではない。「長嶋死す」を知って、突然降って湧いたように耳の奥から聴こえてきたのは、〈どこの誰だか知らないけれど…、誰もがみんな知っている…〉だった。「近藤よし子とキング小鳩会」の子供たちが合唱しているが、小学唱歌のようにリズミカルなメロディーとテンポで、〈月光仮面のおじさんは…〉と続いた。自分でも詞の全文を諳んじていることに驚きながら、昭和33年頃の思い出が走馬灯のようにめぐっていた。

 あらためて調べてみると、楽曲名「月光仮面は誰でしょう」(作詞:川内康範、作曲:小川寛興)は昭和33年(1958)2月24日から翌年7月5日まで、KRT(現:TBSテレビ)系列で放映された子供向けの冒険アクションの連続ドラマ『月光仮面』の主題歌だった。残念なことにボクは当時リアルタイムで観ていたかどうか定かではない。近所の裕福な家にあったテレビ受像機なのか、すでに我が家にあったのかどうか、判然としないのだ。むしろ、テレビの『月光仮面』が大ヒットして間もなく地元の東映系映画館のスクリーンで観た情景(シーン)のほうが、はっきりと浮かんでくる。モノクロ映画ゆえのコントラストで真っ白い上下の衣装と覆面に白いマントをまとい黒いサングラスの月光仮面が〝どくろ〟の仮面を被った悪人どもの前に満を持して登場すると、ワクワクドキドキしながらスクリーンに見入ったものだった。どくろ仮面を蹴散らすと、電光石火の早業でオートバイに乗って去って行く、なぜかエンドロールの「終」の文字が浮かび出てくる直前までのシーンが焼き付いているのだ。(ただしこのシーンはシリーズ全編なのか、一部なのか自信はない)。その間に主題歌「月光仮面は誰でしょう」が流れていた。暗い映画館の客席で、一緒に歌い「終」と同時に拍手が沸いた(と思う)。悪を懲らしめ振り返ることもなく月の光の中に消えていく格好良さに、ボクら子供たちはみんな興奮していたのだった。

 同い年の仲間と酒を酌み交わしながら、「あの頃は、みんな月光仮面は誰でしょう~と大声で歌っていたなぁ」、「街角が遊び場だった、どくろの面を自分で作って、月光仮面ごっこで無心に遊んだな。〝正義〟を叫んでいたなぁ」、と口を揃えた。「家にあった包帯を顔に巻いて、額に紙で作った三日月をつけて、風呂敷をマント代わりにして、月光仮面になり切って遊んだよ」と懐かしがった。月光仮面はみんなのヒーローだった。

 私立探偵の祝十郎(大瀬康一)は、明晰な頭脳と高い運動能力を持ち、警察から絶大な信頼を得て様々な事件を追う。警視庁公認で銃を携帯している。祝が姿を消すと月光仮面が現れ、月光仮面が姿を消すと祝が現れるので「月光仮面の正体」は私立探偵・祝だ、とボクらは思い込んでいた。しかし、当時のオープニングのテロップでは「月光仮面:?」、「祝十郎:大瀬康一)と表記したり最後まで正体は明かされなかった。それだけにボクらは月光仮面の正体を追い求めていたのかも知れない。

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