ソロとしてヒット曲が欲しいところ、作詞家の小泉長一郎の書いた歌詞(タイトル・幸子)がばんばに送られた。ばんばはこの詞を読むと、京都から東京に移動する新幹線の中でサビのメロディが舞いおりてきて、乗車時間2時間50分の中で完成させたという。作曲の番場章幸はばんばのペンネームである。
「SACHIKO」は、大村雅朗のアレンジによる弾むようなピアノの前奏がさわやかだ。そして心を打つのは、幸せと不幸せの数え方で、不幸せの方が圧倒的に多いことだ。器量よしではなく、恋愛下手で薄幸の女性SACHIKOさんは、応援したくなる女性だった。羨ましいのは、優しく見守ってくれる優しいお兄さんのような存在だ。この曲がヒットしたとき、全国の「さちこ」という名前の女性から、自分の名前が嫌いだったけれど、この歌を聴いて好きになったというファンレターが大量に寄せられたという。
「さちこ」の名前を漢字にすると一番に浮かぶのは、「幸子」である。明治安田生命の「時代による名前の人気の変遷」をみると、「幸子」は、大正10年(1921)に7位にランキングし、翌年、翌々年は1位、その後昭和20年代までは上位にランキングしていたが、昭和52年(1977)の8位を最後にランキングから外れている。時代とともに名前は変わっている。当時女の子の名前の多くに「子」が使われていたが、現在はめっきり減り、2024年で一番多い女の子の名前は、凛(りん)ちゃんだそうだ。
編曲の大野雅朗の手掛けた楽曲は多い。松田聖子の「青いサンゴ礁」「夏の扉」「天使のウインク」「チェリーブラッサム」他や、八神純子の「みずいろの雨」、薬師丸ひろ子の「メイン・テーマ」、渡辺美里「My Revolution」、吉川晃司「モニカ」など枚挙にいとまがない。作詞家・小泉長一郎は、1982年10月4日から2014年3月31日まで長きにわたり、新宿のスタジオアルタから生で放送されたバラエティ番組「森田一義アワー 笑っていいとも!」のオープニング曲「ウキウキWATCHING」の作詞もしている。そのほかには、松原みきの「5つ数える間に」や、伊藤銀次「グラストゥリーの夜」、ばんばひろふみの「Tenderness」「できるだけ遠廻り」などがある。
当のばんばひろふみは、盟友谷村新司を亡くし元気なのだろうかと気になったが、1年前に加齢性難聴でステージ活動は休止し、現在はYouTubeチャンネルを開設し、自由なトークを繰り広げているようだ。時には番組内で「SACHIKO」もギターを抱えて歌うことだろう。
近ごろもアンラッキーな悲しい出来事が起きてしまった私は、不幸の数がまた増えてしまったと、ふさぎ込んでいたら「SACHIKO」の歌詞が浮かんできた。そんなとき、「SACHIKO」を「百々子」にして、自分を励ます。「百々子」という命名も両親が考えに考えて私の幸せを願って付けてくれた名前であることも今ではわかる。空の上の父はきっと「百々、大丈夫だ。頑張れ」と応援してくれているに違いない。
文=黒澤百々子 イラスト=山﨑杉夫
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