初出場以来、北島三郎は紅白には欠かせない歌手になり、2013年には史上初の通算出場回数50回を達成し、それを機に77歳で紅白歌合戦を勇退した。その後、2018年に特別枠で一度だけ復帰している。通算トリ回数は美空ひばり、五木ひろしと並ぶ13回と歴代1位、通算大トリ回数11回も美空ひばりに並び歴代1位である。紅白で歌唱した曲は、激しい紙吹雪が北島の口に張り付く紅白らしい派手な演出が話題になった「風雪ながれ旅」(作詞:星野哲郎、作曲:船村徹)が7回、「まつり」(作詞:なかにし礼、作曲:原譲二名義の北島自身)も特別企画を含めると7回、「帰ろかな」(作詞:永六輔、作曲:中村八大)が5回と続く。
また、北島三郎の代表曲に「函館の女」に始まる「女(ひと)」シリーズがある。65年「函館の女」、66年「尾道の女」、67年「博多の女」、「伊予の女」、「伊勢の女」、68年「薩摩の女」、69年「加賀の女」、70年「伊豆の女」、71年「なごやの女」、72年「沖縄の女」、73年「木曽の女」、74年「みちのくの女」、79年「横浜の女」。全13曲の作詞はすべて星野哲郎、作曲はすべて北島と同じく船村徹門下生で、北島の舞台におけるバックバンドの指揮も長年務めていた島津伸男が手がけている。
140万枚のヒット曲となった「函館の女」は66年の紅白で歌唱された。北島のオリコン初ランクイン作品である「博多の女」も69万枚のヒットとなり、同曲にあやかり「博多の女」と名づけられた土産菓子も誕生し、現在も博多銘菓を誇っている。67年の紅白で歌唱された。翌68年の紅白で北島が披露したのは「薩摩の女」で、69年の紅白では「加賀の女」を歌唱した。4年連続で「女」シリーズが披露されている。人生を歌いあげるような重厚な感じではなく、派手な演出もなく、いずれも昭和の歌謡曲らしいメロディラインで、軽音楽といった北島の若さを感じさせるいかにも流行歌らしい軽いタッチが好きだった。北島三郎の初期の代表作と言っていいだろう。歌謡曲のいい時代を思い起こさせる曲である。
また、個人的な趣味で言えば、剣豪俳優・近衛十四郎と品川隆二の軽妙なコメディタッチの掛け合いがなんともおかしく、近衛の剣豪俳優としての強面のイメージと打って変わったコメディセンスと、品川のそれまでの二枚目のイメージをくつがえす軽い三枚目キャラクターで、小学生の子どもたちにも人気だった時代劇「素浪人月影兵庫」(最高視聴率は35.7%)の北島三郎が歌う主題歌「浪人独り旅」も、小学生時代の茶の間の一家団欒の風景とともに懐かしくよみがえってくる。
文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫
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