わが昭和歌謡はドーナツ盤

第20回紅白歌合戦で、後半戦紅組トップバッターとして華麗な変身をとげ登場した1969年歌謡界の一番の話題曲 弘田三枝子「人形の家」

 
 そして、69年、なかにし礼作詞、川口真作・編曲の「人形の家」で再び表舞台に登場した弘田三枝子は、それまでの健康美のハツラツとしたミコちゃんではなく、ダイエットに成功し華麗に変身をとげたエレガントな弘田三枝子だった。マスコミも美のカリスマのように紹介し〝華麗なるカムバック〟などという言葉で迎えた。70年には自身の経験を踏まえた『ミコのカロリーBook』をも出版し、タレントのダイエット本の先駆けとして大ベストセラーとなった。

「人形の家」は、作詞のなかにし礼によると、男女の恋愛を歌った歌詞ではあるが、愛されて(国を信じて)、捨てられて(国に見捨てられて)、忘れられた部屋の片隅(満州の地に置き去りにされた)という、自身の体験による満州引揚者の心情を込めた歌だということだ。私はあなた(日本)に命を預けたのに。

 レコードは、弘田三枝子の華麗なる変身も追い風となりオリコン週間シングルチャートで1位まで上り詰め、弘田はレコード大賞歌唱賞を受賞し、見事に2年ぶりに再び紅白歌合戦に返り咲いたのである。この年は、いしだあゆみ「ブルー・ライト・ヨコハマ」、由紀さおり「夜明けのスキャット」、森山良子「禁じられた恋」、小川知子「初恋のひと」、奥村チヨ「恋泥棒」、黛ジュン「雲にのりたい」、青江三奈「池袋の夜」、佐良直美「いいじゃないの幸せならば」の69年の紅白出場者に加え、アン真理子「悲しみは駆け足でやってくる」、中山千夏「あなたの心に」、浅丘ルリ子「愛の化石」と、歌謡界では女性歌手の活躍が目立った年だった。

 その後、「私が死んだら」「燃える手」「ロダンの肖像」「バラの革命」などのヒット曲を出し、紅白には71年まで通算8回出場している。

 
 70年代後半以降はヒット曲が出なかったため、テレビなどメディアへの出演こそ少なくなったが、小規模ながらもライブハウスでのライブ活動や、アルバム制作にも意欲的に向き合い、衰えることのない歌唱力を披露していたが、2020年73歳でこの世を去った。生涯現役歌手を貫いた。

 訃報に接した山下達郎は自身のラジオ番組TOKYO FM「山下達郎サンデー・ソングブック」で、弘田がカバーした「悲しきハート」をオンエアし、「16歳とは思えない素晴らしい歌唱力」と紹介し、「戦後最高の力量をもつシンガーの一人の方でございますのに、こんなご時世もあってでしょうかね、(弘田の死が)メディアにはほとんどのぼりません。ホント残念なことであります」と、弘田三枝子がまるで忘れられた存在であるかのような扱いを嘆いた。

 また、サザンオールスターズの桑田佳祐もTOKYO FM「桑田佳祐のやさしい夜遊び」で、「存在自体がポップ。ビート感いっぱいのポップスで、笑顔、ダンスを画面いっぱいに、歌われていた。とにかくナンバーワンでした。チャーミングでね、みんなの憧れで」と、追悼の賛辞を贈っている。

 第20回の紅白歌合戦を再見して、このステージは歌手・弘田三枝子にとって最高に誇らしい檜舞台だったかもしれないな、と感じさせられた。

文=渋村 徹 イラスト=山崎杉夫


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