日本で一番売れたレコード「およげ!たいやきくん」大ヒットの陰のアナザー・ストーリー

 前代未聞の売上げには、いろいろ要因があったのだろう。アフロヘアーと丸眼鏡の風貌が印象的な子門真人は多くの歌謡番組に出演し耳目を集めた。そのうち大人たちが声を張り上げ、新聞は、「サラリーマン哀歌」と取り上げた。レコードに付録でついていた塗り絵に子供たちが夢中になった。子供が3人いれば、レコード1枚というわけにもいかず、これもヒットにつながった。キャニオンレコード1社だけでは対応できず、他のレコード会社の工場にも協力を仰いで、追加製造を受け持ってもらったという。460万枚という驚異的な枚数はライバル会社の協力があってこそ実現した。

「およげ!たいやきくん」の作詞は、高田ひろお、作曲・編曲を佐瀬寿一という新進気鋭の作家たちだった。詞は高田が故郷の釧路時代、銭湯に行く雪道にたいやき屋があり、買って帰る道すがら、おなかを温めてくれた思い出を、児童小説にしようとしたものだったという。その思いは、2000年に『およげ!たいやきくん おとぎばなし』として刊行された。

 作曲・編曲の佐瀬寿一は、ずうとるびの「みかん色の恋」、山口百恵の「パールカラーに揺れて」、「赤い衝撃」、畑中葉子「後ろから前から」などたくさんのヒット曲がある。

 子門真人は、『科学忍者隊ガッチャマン』などのアニメソングや『仮面ライダー』などの特撮テレビドラマの主題歌で多くのヒット曲を持つ。「およげ!たいやきくん」は、全日本有線放送大賞特別賞、FNS歌謡祭最優秀ヒット賞を受賞。以降は音楽プロデューサーとして活動するが、93年に音楽業界から引退したとされ、その後彼をメディアなどで見かけない。

 当時、仙台のライブハウスで演奏をしていた稲垣潤一は、店のオーナーに乞われ、「およげ!たいやきくん」を歌ったという。子門真人とはずいぶんタイプが違うが、のちにアルバム「男と女5」(2015年)で、元AKBの竹内美宥とのデュエットが収録されている。コンサートのこの日は、女性ボーカルと「およげ!たいやきくん」を歌ってくれた。稲垣の伸びのある高音の歌声は昔のままで、ドラムを叩く姿は若々しかった。コンサートに出かけたおかげで、久しぶりに時間旅行を楽しめた。同時にリリースから47年、「およげ!たいやきくん」にも、いろいろなアナザー・ストーリーがあることを知ることができたのだった。

 ちなみに「およげ!たいやきくん」のB面は、「いっぽんでもニンジン」。こちらの曲もよく覚えている。テレビの黄金期だった70年代、「テレビ童謡」は、子供も大人も夢中にさせた。

文=黒澤百々子

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