歳を重ねるたびにしみじみと心にしみるスタンダード・ナンバー荒木一郎「空に星があるように」

 荒木はまた、沢田研二ほか、さまざまなアーティストへの楽曲提供や、プロデュース、映画やテレビの音楽担当も積極的に実施している。71年のテレビドラマ「ムー」の音楽を担当し、このドラマでデビューした岸本加世子のデビュー曲「北風よ」の作詞・作曲も手がけた。川谷拓三が歌った76年のテレビドラマ「必殺からくり人」の主題歌「負犬の唄」の作詞も担当している。作曲は平尾昌晃だった。中でも記憶に残る、そして大好きな曲は、パルが歌った「夜明けのマイウエイ」と、桃井かおりが歌った「バイバイ子守唄(ララバイ)」だ。いずれも音楽を担当したテレビドラマ「ちょっとマイウエイ」(79年~80年)、「ダウンタウン物語」(81年)の主題歌である。「ちょっとマイウエイ」は鎌田敏夫や清水邦夫らが脚本を担当し、桃井かおり、研ナオコ、八千草薫、緒形拳、岸本加世子、神田正輝らが出演した人気ドラマで、パルは主題歌をはじめ、荒木作曲の挿入歌も含めて9曲も歌っており、ドラマをより印象深いものにしている。サントラ盤を聴いていると、今でもドラマのシーンがよみがえる。「ダウンタウン物語」は、市川森一が脚本を手がけ、桃井かおり、夏目雅子、川谷拓三、市原悦子、岡田茉莉子、佐藤浩市らが出演したドラマで、毎週楽しみに観ていたことを思い出す。いずれも、音楽家としての荒木一郎の才能を見せつけられた作品だった。

 さて、「空に星があるように」だが、僕がこの作品のすばらしさを実感することになったのは、79年の大晦日に放送された民放94局ネットの「ゆく年くる年」内で放送された、セイコー腕時計の長尺コマーシャル「たった1秒でも」のCMソングとして流れたのがきっかけだった。荒木は、この曲で、人が夢を持つことも、その小さな夢が消えてしまうことも、それは四季折々に感じる季節の変わり目のようなものだと歌う。空に星があるように、人々はごく普通に夢を持ち、川が流れて行くように、小さな夢が消えていくのも、それほど落ち込むことではない、僕にはそう歌われているように感じた。

 そして最後のフレーズで、秋に枯葉が散るのと同じような、春の季節の変わり目を「春に小雨が降るように」と表現された一節に、荒木一郎の音楽家としての才に加えて、詩人の心のようなものに触れた思いがしたのだ。そこに歌われる自然は、悠久の、そして壮大なスペクタクルなものではなく、人々が日々の営みで何気なく感じる日常的な自然のスケッチと感じたとき、そして流れるようなメロディの心地良さを感じたとき、決して歌い上げることのない荒木の歌唱のように、さりげないからこそ、心に響いたのだと知った。僕の人生にとって、大切な1曲となった。

文=渋村 徹

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