20.06.22 update

映画人気とともに、映画館が町の中心になっていった昭和の思い出

「活動写真」から「映画」の時代へ

 映画が現在のように広く親しまれるようになったのは大正時代になってから。

 映画評論家の大先輩たちはだいたい十代の頃、つまり大正時代に映画の魅力にとりつかれている。たとえば明治三十五年東京生まれの飯島正は回想記『ぼくの明治・大正・昭和」(青蛙房、平成三年)のなかで府立一中(日比谷高校の前身)の生徒だった頃に映画が好きになり、毎日のように学校の帰りに浅草まで映画を見に行った、と書いている。

 また明治四十二年に神戸に生まれた淀川長治は『淀川長治自伝』(中央公論社 昭和六十年)のなかで、大正七、八年頃に、神戸の映画館に通うようになり『ファントマ』や『ジゴマ』に夢中になったと書いている。大正時代は「映画の青春期」だったといえる(ちなみに当時まだ「映画」ではなく「活動写真」といっていた)。川端康成の大正時代に書かれた『伊豆の踊り子』で踊り子が旅の途中であった「私」(一高の学生)と親しくなり「(あした下田に着いたら)活動へ連れて行ってくださいましね」といっているのは「映画の青春期」ならでは。この時代、もう伊豆の下田にも映画館が出来ている。

 映画がさらに普及するのは昭和に入ってからで、昭和になると「活動写真」にかわって「映画」が使われるようになる。

 昭和十二年(1937)に発表された永井荷風の『濹東綺譚』は荷風自身を思わせる「わたくし」が浅草の映画館に出かけるところから始まっている。
「わたくし」は映画そのものは見ないが、看板だけは見るようにしているという(荷風は「映画」ではなくあえて「活動写真」という古い言葉を使っている)。

「(略)活動写真は老弱(ろうじゃく)の別(わかち)なく、今の人の喜んでこれを見て、日常の話柄にしているものであるから、せめてわたくしも、人が何の話をしているのかというくらいの事は分かるようにして置きたいと思って、活動小屋の前を通りかかる時には看板の画と名題とには勉(つと)めて目を向けるように心がけている」

 昭和に入って映画が小市民に広く親しまれるようになっていることが分かる。

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映画は死なず

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