20.09.24 update

仲人を務める世話好きなおじさんやおばさんのいた昭和

原節子が演じた良家の娘の見合い

 女性の権利が言われた戦後の民主主義の社会になっても見合いは以前どおりに行われる。とくに良家の娘たちは自由に恋愛することが難しかったから見合いが普通だった。

 小津安二郎の監督の『晩春』(49年)は、鎌倉に住む男やもめの大学教授(笠智衆)と、その世話を焼いているために婚期が遅れている娘(原節子)の物語。

 娘の行く末を心配する父親は、自らが再婚の意志があると見せかけ、娘の「私が結婚したら、お父さんの世話は誰が見るの」という心配を消し、娘を結婚させてゆく。

 この娘の結婚は見合いで行なわれている。ただし、映画のなかに見合いの場面はない。父と娘の強い絆を浮き上がらせるためだろう。

 原節子は品のいい良家のお嬢さんの役が多かったが、それだけに見合いが似合う。木下惠介監督の『お嬢さん乾杯』(49年)では、戦後没落した良家のお嬢さん。それが、町の自動車工場を経営して羽振りのいい青年(佐野周二)と見合いすることになる。

 斜陽族と成り上がりの対比で物語は進む。お嬢さんの原節子には戦争で死んだ恋人がいた。だから素直に見合い話に乗れない。しかも、貧しくなった自分の家が、自動車工場で景気のいい男の経済力に頼ろうとしているのも心苦しい。

 それでも見合いのあと交際してみようということになる。一般に見合いのあとはしばらく交際してみるのが普通だった。

 良家のお嬢さんが成り上がりの青年を連れていくのはクラシック・バレエ。それに対し金回りのいい青年が連れて行くのはボクシング。教養の違いが出てしまう。

 それでも青年はいたって気のいい好青年でお嬢さんも次第に心惹かれてゆき、最後は目出度く結ばれる。品のいいお嬢さんが、庶民の娘のように「惚れています」ということで。『晩春』と違って見合いから交際、そして結婚、とプロセスが描かれているのが面白い。

古風な若い女性がいた昭和三十年代

 昭和三十七年(1962)に公開された小津安二郎監督の最後の作品『秋刀魚の味』は『晩春』と同様、男やもめの父親(笠智衆)とその世話をしているために結婚の縁が遠くなっている娘(岩下志麻)の物語。

 娘には好きな男性がいたが、その男性は結婚してしまう。その結果、彼女は見合い話を受け、結婚することになる。昭和三十年代のなかばまでまだこんな古風な若い女性がいたとは驚く。

 昭和三十六年(1961)に公開された松本清張作、野村芳太郎監督の『ゼロの焦点』では、久我美子演じる若い女性が、見合いによって広告会社の社員(南原宏治)と結婚する。

 しかし、新婚まもなく夫は失踪してしまう。夫はなぜ、どこに行ったのか。調べてゆくうちに見合い結婚なので夫について型どおりの経歴(いわゆる仲人口)しか知らなかったことに気がつく。見合い結婚が生んだミステリーといえる。

 この映画からも昭和三十年代のなかばまでは見合い結婚がまだ普通に行われていたことが分かる。『セロの焦点』でヒロインを演じた久我美子の代表作のひとつは、原田康子のベストセラー小説の映画化、五所平之助監督の『挽歌』(57年)。

 久我美子演じる釧路に住む若い女性は、男やめめの父親(斎藤達雄)と暮している。父親は婚期にある娘のことを心配して今日も寺の僧侶との見合いの話を持ってくる。しかしドライな娘は「お坊さんなんて嫌よ」と相手にもしない。

 そして彼女は妻子のある中年男性(森雅之)との道ならぬ恋に走ってゆく。このヒロインが当時、評判になったのは、まだまだを見合い結婚をする女性が多かった時代に、見合いの話を断わり、自分の感情のままに世間では許されない恋を選んでゆく新しい女性だったからだろう。

見合いといえば欠かせないのが見合い写真だ。女性たちは盛装し、町の写真館で極上の写真を撮ってもらった。写真の2枚は岡山県津山市にある江見写真館で撮られたもので、上は大正時代、下は戦前昭和のお嬢さん。江見写真館は明治5年(1873)の開業の写真館で、建物は有形文化財に指定されている。(写真提供:江見写真館)

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