昭和の子供たちは、銭湯で人情を知り行儀マナーを教えられた

子供にとっては銭湯も遊び場

 子供たちも銭湯を楽しむ。

 成瀬巳喜男監督の『風立ちぬ』(60年)は母親(乙羽信子)に連れられ信州から東京にやってきた小学生(大沢健二郎)のひと夏の物語。

 銀座に近い新富町あたりで八百屋を営んでいる伯父さんの家に預けられる。下町だから内湯はなく銭湯。

 銭湯に行くと町の子供たちがにぎやかに遊んでいる。すぐに親しくなる。湯舟で泳いだり、指鉄砲で湯を飛ばしたり。銭湯は子供の遊び場でもあった。もちろん度が過ぎると怒られたが。

 感心な子供もいる。松山善三監督、高峰秀子、小林桂樹主演の『名もなく貧しく美しく』(61年)では、父親(小林桂樹)と子供が一緒に銭湯に行く。子供が父親の背中を流す。なんと親孝行な。こんな風景も次第に消えていっているのではないか。

 豆腐屋と古本屋と銭湯がある町は、懐かしいいい町だと思っている。幸い我が家に近い浜田山には昔ながらの銭湯が健在。時々、出かけるのを楽しみにしている。

銭湯すたれば人情もすたる
銭湯を知らない子供たちに
集団生活のルールとマナーを教えよ
自宅にふろありといえども
そのポリぶろは
親子のしゃべり合う場にあらず、
ただ体を洗うだけ。
タオルのしぼり方、
体を洗う順序など、
基本的ルールは誰が教えるのか。
われは、わがルーツをもとめて銭湯へ。
─田村隆一(詩人)



日本各地の銭湯の脱衣場などで目にする銭湯を愛した詩人田村隆一の詩。

昭和30年代ころまでは、割り箸などに固まらせたアイスキャンデーを売るアイスキャンデー屋が、チリンチリンと振鈴(ハンドベル)を鳴らしながら町を回っていた。銭湯帰りにアイスクリームのような冷たいものを買ってもらうことを、子供たちはいつも期待している。だから、銭湯に行くのが大好きである。アイスキャンデー売りも懐かしい昭和の風景である。写真提供:北名古屋市歴史民俗資料館

かわもと さぶろう

評論家(映画・文学・都市)。1944 年生まれ。東京大学法学部卒業。「週刊朝日」「朝日ジャーナル」を経てフリーの文筆家となりさまざまなジャンルでの新聞、雑誌で連載を持つ。『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京『断腸亭日乗』私註』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞、桑原武夫学芸賞)、『映画の昭和雑貨店』(全5 冊)『我もまた渚を枕―東京近郊ひとり旅』『映画を見ればわかること』『銀幕風景』『現代映画、その歩むところに心せよ』『向田邦子と昭和の東京』『東京暮らし』『岩波写真文庫 川本三郎セレクション 復刻版』(全5 冊)など多数の著書がある。

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