new 21.12.26 update

合唱の楽しさ 

仲間が集うと、歌が始まる

昭和の風景 昭和の町 2016年10月1日号より

修学旅行にハイキング、学生寮や職場の昼休みでも人が集まれば、合唱が始まった。童謡に抒情歌、アメリカ民謡にロシア民謡や歌曲、山の歌に労働の歌。学生もサラリーマンも工員も、町や村の青年会もみんな合唱が大好きだった。歌声喫茶や歌声酒場なる店も登場し、知らない同士が、同じ歌を歌い親しくなったりもした。働く若者たちを描いた映画にも、合唱を楽しむ若者たちの姿が多く描かれている。昭和は、日本中に若者たちの歌声が響いた時代でもあった。

文=川本三郎

行楽気分を
盛り上げる
バスの中での合唱

 カラオケのない時代、若者や女性たちはよく合唱を楽しんだ。家のなかで、観光旅行の列車やバスのなかで、ハイキングの途中で。楽しい時は、誰かひとりが歌い始めると、仲間がそれに続く。
 高峰秀子の子役時代の作品、井伏鱒二原作、成瀬巳喜男監督の『秀子の車掌さん』(41年)では、高峰秀子演じる少女は、甲州の田舎町を走るバスの車掌。
 ある好天の休日、東京から女学生たちがハイキングにやってくる。セーラー服に丸い帽子、リュックサック。バスに乗るや、すぐに行楽気分になって歌を歌いだす。
 〽ラララ 紅い花束 車に積んで 春が来た来た 丘から町へ
 当時、女学生のあいだで流行った「春の唄」(喜志邦三作詞、内田元作曲)。戦時色とはまるで縁のない、花があふれる春の讃歌。女学生がハイキングの時に歌うのにふさわしい。清潔で、春=青春の喜びにあふれている。
 〽ビルの窓々 みな開かれて 若い心に 春が来た
 バスのなかで歌われるのは困るのだが、女学生たちがあまりに楽しそうなので、秀子の車掌さんは何もいえなくなってしまう。

子供の誕生会の席でも
合唱が始まる

 誕生会が盛んになったのは戦後、ようやく日本人の暮しが落着いてからだろう。
 小林正樹監督の第一作、昭和二十七年公開の『息子の青春』は、鎌倉に住む作家(北竜二)の家族を描いたホームドラマ。
 息子(石濱朗)は高校生。そろそろ女の子が気になる思春期にあり、心優しい母親(三宅邦子)は、息子のために誕生会を開く。男の子たちだけではなく、女の子たちも招く。
 バースデーケーキを囲んで、高校生たちはさっそく歌を歌う。
 〽ハッピーバースデー、トゥ、ユー 

 みんなが楽しそうなので、台所にいる母親も、書斎にいる父親も思わずつられて、〽ハッピーバースデー。
 カラオケがなかった時代の牧歌的風景になっている。
 そのあと、男の子たちと女の子たちは二手に別れてフォークダンスを始める。歌う歌は、
〽あの娘の黄色いリボン
 ジョン・フォード監督の西部劇『黄色いリボン』( 49 年)の主題歌(アメリカのフォークソングが原曲)。当時、日本でも大ヒットした。
 男の子も女の子も、〽あの娘の黄色いリボン……と歌いながら、フォークダンスを踊る。戦後、男女共学が普通になってからの青春風景。両親は羨ましそう。

北九州小倉、東谷地区の青年学級のピクニックでのフォークダンスの模様。ハイキングやピクニックではフォークダンスも定番のイベントであった。女性が少ないのか、男同士で踊るペアが多いようだ。フォークダンスではパートナーが次々に入れ替るが、あと一人で意中の女の子がまわってくる、というところで曲が終ることもしばしばだった。写真提供:東谷地区まちづくり協議会


 

2015年10月1日 Vol.25より

1 2

サントリー美術館様

特集 special feature 

挑戦し続ける劇団四季

挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン

「芸術座」という血統

「芸術座」という血統

名作『放浪記』の舞台から「シアタークリエ」へ

秋山庄太郎ポートレートの美学

秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

ウイスキーという郷愁

ウイスキーという郷愁

いつか「ダルマ」が飲める大人になってやる

昭和は遠くなりにけり

昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

Present

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives

私にとっての箱根 archives

私にとっての箱根 archives

information

小田急沿線さんぽ 

読者の声

コモレバクラブ

Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!