時代劇専門チャンネルオリジナル時代劇の世界
第三弾
藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残日録」の章
主演北大路欣也が語る「三屋清左衛門残日録」
~時代劇にはまだまだ未来がある~
取材・文:二見屋良樹
企画協力・写真&画像提供:日本映画放送
主人公・三屋清左衛門を演じる北大路欣也は「清左衛門は私の理想であり、憧れの人物」と言う。本シリーズは、俳優・北大路欣也の代表作の一つに挙げられる。70年近い芸歴を持ち、現在も第一線で活躍中の北大路欣也が、藤沢周平原作の時代劇「三屋清左衛門残日録」の魅力を語る。

「60代半ばのころ、三屋清左衛門をやってみないかとのオファーをいただきました。仲代達矢さんが以前演じていらしたドラマ「三屋清左衛門残日録」を大変面白く拝見していて、いずれは演じてみたい役だと思っていたのですが、当時はまだ、人間としても俳優としても三屋清左衛門を演じきれる境地に私自身がいたっていないと感じ、実現はしませんでした。その5年後くらいに、今のタイミングではいかがでしょうか、と再度のオファーをいただき、これは縁だなと思い、やらせていただきたいとお返事しました」と作品との出合いを語る。
そして、2016年、時代劇専門チャンネルオリジナル時代劇として北大路欣也主演による「三屋清左衛門残日録」の記念すべき第1作が放送された。北大路欣也73歳のときである。
「人間として、また俳優としての経験も踏まえながら、三屋清左衛門という役に入り込んで演じさせていただきました」という言葉には、まさに〝機は熟した〟という心境がうかがえる。
俳優 北大路欣也の芸は東映の撮影所で育まれてきた。
「俳優としてのスタートは時代劇、いわゆるチャンバラで、これまでずいぶん多くの時代劇に出演し、お役を演じさせていただきましたが、「三屋清左衛門残日録」には、藤沢周平先生の世界観が見事に映し出されていて、今までにない新たな仕事に挑むのだというような心持で向き合うことができました。作品と三屋清左衛門というお役にとても新鮮な感覚を覚えました」という発言からは、新たな作品に出合う喜びと大事に取り組むみずみずしい意欲が伝わってくる。
第1作から9年、シリーズは今作で8作を数える。
「毎回、共演者の方々、スタッフをはじめ、この作品に関わるすべての人たちが、私の思いを支えてくださっていることを感じます。大げさな表現かもしれませんが、俳優・北大路欣也に命をいただいているという思いです。そして、作品には、すべての共演者、スタッフとの関わりから生まれてくる、いい雰囲気が映し出されている。そこがこの作品が多くの方々に愛される魅力ではないでしょうか」と確かな手応えを感じている。
北大路欣也が東映から俳優としてデビューしたのは13歳。〝東映城のプリンス〟として売り出された。
「その時代は父である市川右太衛門、片岡千恵蔵さん、中村錦之助(後に萬屋錦之介) さん、大川橋蔵さんといった大先輩たちが、東映時代劇黄金時代を築き上げるのに、日々格闘なさっている時代でした。
そして、そんな大先輩の俳優さんたちの熱い思いを支えている、監督、照明、音響、美術など、それぞれの分野のスペシャリストといえる、撮影所の偉大なる職人の方たちがいらして、私はそんなプロフェッショナルのお仕事を見ながら育ちました。「三屋清左衛門残日録」の撮影現場には、その時代に見ていた見事なプロフェッショナルの仕事が残っています。
匠とも言える職人さんたちの技が今に受け継がれていて、そんな現場に〝今〟いられるということが、俳優としてなんて幸せなことかと実感しています。
一方で、若い世代にとっては、今も受け継がれる職人たちの技がしのぎを削る環境で仕事ができるというのは新鮮な体験だと思います。そういうプロフェッショナルな仕事を感じられると俳優は誰だって燃えますよ」と、作品を支える撮影所の職人たちの見事な仕事にも言及する。そして、京都で一か月ほど撮影をする中で、京都には時代劇が成立する場所が今でも多くあり、京都という土地が時代劇を守ってくれていると実感したと語った。