SPECIAL FUEATURE

映画『男はつらいよ』誕生50年

 

寅さんがいる風景

 

 

27年間で49作撮影された世界でもっとも長く続く映画シリーズ 『男はつらい』の第1作が公開されたのは1969年8月27日だった。

8千万人の観客動員数を記録し、〝国民的映画〟とも称され、渥美清亡き後も、多くの人々が寅さんと出会えた幸せを噛みしめている。

「寅さんに会えて良かった」と、誰かが言ってくれること、それこそ、まさしく寅さんの幸せでもあった。

自分が誰かの役に立っていると思ったとき、寅さんは幸せを感じるのだ。

山田洋次監督は、そんな幸せの価値観について、今、真剣に考えなければいけない時と問いかける。

そして、12月27日には50作目となる新作『男はつらいよ お帰り 寅さん』が公開される。

今一度寅さんがいた風景を思い出してみよう。

文=米谷紳之介

企画協力&写真提供=松竹株式会社

寅さん映画に残る公衆電話と手紙

 

  映画『男はつらいよ』の世界には当たり前のようにあって、二十一世紀の日本から姿を消しつつあるものは少なくない。

  その一つが公衆電話である。旅先の寅さんが故郷の葛飾柴又の「とらや」に長距離電話をするときは、たいていは店先の赤電話か、電話ボックスからだ。電話機の上にいくつも十円玉を置き、途中でそれが足りなくなって電話が切れてしまうのが常である。

  劇中に初めて携帯電話が登場するのは『拝啓 車寅次郎様』(第47 作)。もちろん、寅さんが手にすることはない。 容易に連絡がつき、居場所が分かってしまう携帯電話など、寅さんにはきっと窮屈でしかない。便利さがもたらす不自由を本能的に知っていたはずだ。

  もし、さくらが心配して無理矢理持たせ、度々電話しようものなら、

「うるせいなぁ、放っておいてくれよ」

  と、携帯電話を川に放り投げてしまうだろう。ちなみに、携帯電話が爆発的に普及し始めるのは一九九五年。シリーズ第48作の『寅次郎紅の花』が封切られた年でもあるから、まさに巡り合わせだ。

  もう一つ、寅さんにとって欠かせな い通信手段が手紙である。

…… 続きはVol.41をご覧ください。

主演・渥美清、 待望の寅さん最新作 第50作
『男はつらいよ お帰り 寅さん』

『男はつらいよ お帰り 寅さん』 12月27日(金)全国松竹系ロードショー

監督:山田洋次/脚本:山田洋次、朝原雄三/出演:渥美清、倍賞千恵子、前田吟、 吉岡秀隆、後藤久美子、夏木マリ、浅丘ルリ子 ほか
配給:松竹 ©2019松竹株式会社 ※10月28日から開催される東京国際映画祭ではオープニング作品として上映される。

『男はつらいよ』の新作が製作されると聞いたとき、渥美清がいなくてどうやって映画を成立させられるのかと首を傾げたが、同時に山田洋次監督がどんな奇跡を見せてくれるのかという期待もふくらんだ。主役はもちろん、渥美清である。 故人である、渥美を主演にする手法とは。新作の製作の裏側に迫るドキュメンタリー番組の中で、山田監督はひたすら過去の『男はつらいよ』と向き合っていた。

「過去の作品に何度もカットバックし、寅さんの言動を観客に思い出させる。たとえそれが、振り返ってニコッと笑う寅さんの顔、といった短いショットであっても。おそらく49作品の中から寅さんの最高のショットが甦るだろう」と発言していた。

  さらに「満男(吉岡秀隆)の少年時代からを追いかけて見ていると、一人の役者が小学生、中学生、高校生、そして社会人になって恋愛するまでを、ずっとライブで追いかけて見ている。いわばドキュメンタリー。それを軸にして、満男の成長過程の傍らにいつも寅さんがいて、人生の教師であったというふうに作ると、 回想場面だけでも一つの映画ができないか」と自問する。

 物語はシリーズ後半の主要登場人物 で、寅さん(車寅次郎)の甥・満男の妻の七回忌の法要から始まる。さくら(倍賞千恵子)と諏訪博(前田吟)が結婚したのは第1作、そして満男が生まれる。と いうことは満男50歳で娘もいる。会社員を辞めて小説家になっている。

  団子屋〈くるまや〉は、〈喫茶・甘味処 くるまや〉に生まれ変わり、店にはさくらの一家が住んでいる。本作には、満男の初恋の相手泉ちゃん(後藤久美子)も登場。後藤は23年ぶりの銀幕復帰となる。寅さんの運命的なマドンナともいうべきリリーさん(浅丘ルリ子)も元気だ。東京でジャズ喫茶を開いている。有名な主題歌を唄うのは、大の寅さんファンだ というサザンオールスターズの桑田佳祐で、オープニングシーンにも登場する。

  映画のテーマは「いま、幸せかい?」。 いま、僕たちは幸せだろうか、そして、君たちはどう生きるかと問いかける。60年代後半から70年代前半にかけての日本人が元気だった時代が生んだ寅さん。 「いま、みんなの生活は大丈夫かい、世の中は、日本は大丈夫かい」と確かめるために、寅さんが帰ってくるような気がする。忘れかけている大切な何かを、寅さんはいつも思い出させてくれている。

こめたに しんのすけ

1957年、愛知県蒲郡市生まれ。立教大学法学部卒業後、新聞社、出版社勤務を経て84年に独立。ライター・編集者集団「鉄人ハウス」を主宰。映画、 スポーツ、旅、人物などのジャンルを得意とする。著書に『映画 勇気がわきでるタバコ名場面』(同文書院)、『老いの流儀 小津安二郎の言葉』(環境デザイン研究所)、『プロ野球 奇跡の逆転名勝負33』(彩図社)など、構成・ 執筆を務めた書籍に関根潤三『いいかげんがちょうどいい』(ベースボール・ マガジン社)、野村克也『プロ野球 最強のエースは誰か?』(彩図社)、『最強の組織をつくる 野村メソッド』(彩図社)など多数ある。


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