ウイスキーという郷愁 ~いつか「ダルマ」が飲める大人になってやる~

サントリーといえば、時代の空気を先読みした遊び心にあふれる数々の広告がある。その広告制作の自由な気風は、 まだサントリーが寿屋であった時代に生まれた。昭和30年代当時の寿屋宣伝部には後に芥川賞を受賞する作家・開高健、直木賞を受賞する作家・山口瞳、 アンクルトリスを生み出したイラストレーター・柳原良平ら異才が集まっていた。トリスバー向けのPR誌「洋酒天国」の発刊は昭和31年のこと。コマー シャル色を徹底的に排除し、その内容は野球、コーヒー、香水、テレビなど森羅万象にわたり後には「夜の岩波文 庫」とまで呼ばれた。創刊号には吉田健一や木村伊兵衛の名前もある。

柳原良平のイラストによるアンクルトリスが誕生した昭和33年以来、アンクルトリスはサントリーの顔として様々な広告に登場。

宇野  そういえば「オールド」のボトルっていいですね、黒の「ダルマ」。 それと「オールド」のコマーシャルといえば「ドンドンディドンシュビダ デン オデーエーエーエーオー」というスキャットの曲(小林亜星作詞・作曲「夜がくる〜人間みな兄弟〜」)も、 「オールド」っていう味わいでしたね。 ちょっと哀愁があって、ウイスキーのように沁みるような。

村松  テレビを通じて、「トリスを飲んでハワイへ行こう!」なんていうのをはじめとして、世相とスイングして酒場なり洋酒があったという時代ですよね。

宇野  トリスバー向けのPR誌が「洋酒天国」で編集長が開高健さんだったんですね。サントリーの広告チームには山口瞳さんがいて、アンクルトリスの柳原良平さんがいましたね。「人間らしくやりたいナ」は開高さんのコピー、「トリスを飲んでハワイへ行こう!」 は山口さんのコピーでしたよね。 今は伊集院静さんが書いている、新成人に向けたメッセージも当時からありましたしね。「新入社員諸君!」と題した当時のコピーで「はじめてもらったサラリーでトリスを買ってパパと飲もう」というのもありました。サントリーは、記憶に残る広告、コマーシャルがたくさんあります。

村松  そのころは酒といえば、みんなウイスキーですね。日本酒でもないし、 ワインでもないし。日活の石原裕次郎の映画でもウイスキーなんですね。

宇野  ワインになると、雑学というか、教養を出し合ったりするから、男の話にならないんでしょうね、きっと。一 番ウイスキーを愛したって人はどなたでしょうね。

村松  伊丹十三さんは、まだ一 三(いちぞう)のころからのつき合いだったんですけど、 二人ともJ&Bとかカティサークとかが世の中に出てくるとそういうのを飲みたいと思うわけです。簡単には手に入らないから、それを持っていったりすると、伊丹さんものすごく喜びましたね。バーボンやジャックダニエルなんかで何年ものというようにステップが段々上がっていく、そのステップアップみたいなことを喜ぶレベルっていうのかな、男として。そういう感覚にウイスキーというのは合うのではないかと思うんですよ。何でも手に入るような人が最終的に楽しめるとしたら、それはブランデーとかワインみたいなことになるのかなと。ある意味で、長いレンジの男の青春みたいな感じが漂うんですよ、ウイスキーには。

宇野   それと食事とリンクしにくいですね、ウイスキーは。やはりつまみ程度がぴったりとくる。ウイスキーをBGMに食事をするという感覚ってあまりないですよね。ワインも日本酒も、 焼酎も食事のパートナーになる。だから逆に村松さんが言っていたようにお酒として、ウイスキーは潔いんです。

村松   それに、若いころは二級酒のような、相撲でいえば序の口のようなところから入って、酒をステップアップ していくというのは、あれはね一種の面白さなんですよね。いきなり大関級の酒を若いうちに飲んでしまうと、どういうことになるのかなと。それじゃ最高のフィクションとしての貧乏が、 楽しめない(笑)

毎年、成人の日に、20歳になった若者たちに向けた、人生と酒を語ったメッセージ・シリーズもサントリーウイスキーのおなじみの広告。現在は作家・伊集院静氏のコピーで知られる。写真はすでに作家となった山口薫氏が書いた「人生仮免許」。昭和53年1月15日の新聞広告

むらまつ ともみ
作家。1940年、東京生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。出版社勤務を経て文筆活動に入る。82年『時代屋の女房』で第87回直木賞、97年『鎌倉のおばさん』で第25回泉鏡花文学賞受賞。『私、プロレスの味方です』 『夢の始末書』『アブサン物語』『ヴィンテー ジ酒の物語』『百合子さんは何色』『幸田文のマッチ箱』『淳之介流―やわらかい約束』『永仁の壷』『ヤスケンの海』『時のものがたり』『清水みなとの名物は―わが心の劇団ボートシミズ』『雷蔵の色』など多数の著書がある。

うの あきら
挿絵画家、イラストレーター、グラフィックデザイナー。1934年、名古屋市生まれ。50年代から鬼才イラストレーターとして活躍し、65年には横尾忠則、和田誠、山口はるみ、灘本唯人らと共に東京イラストレーターズ・クラブを設立、寺山修司の天井棧敷のポスターの制作などに携わる。『上海異人娼館』 (寺山修司)、『ジャミパン』(江國香織)、『時のものがたり』(村松友視)、『世界は俺が回してる』(なかにし礼)など多数の挿画のほかに、『宇野亜喜良の世界』『宇野亜喜良全エッセイ・薔薇の記憶』『宇野亜喜良60年代ポスター集』などがある。

2010年6月1日 Vol.5より

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