加山雄三 80歳の青春グラフィティ

後輩たちに憧れと羨望を抱かせる
加山雄三が生んだ音楽の潮流

父・上原謙と自宅の庭でくつろぐ加山。
加山の母・小桜葉子は女優であり、1960年代には、小桜式美容体操の講師として大活躍した。加山の歌に母を思って作った「母よ」という曲がある。作詞は、岩谷時子。

 下積みがない──。
  それは、彼の音楽人生を何よりも象徴している一言でもあるのだと思う。
  戦前戦後を代表する二枚目俳優と名門の女優を両親に持つという血筋。彼が、音楽に興味を持ったのは、8歳の時に叔母が弾くバイエルがきっかけだったと言う。1945年、戦争が終わった年だ。通学路の途中に住んでいた有名なピアノの先生に惹かれてピアノを習い始めた。リキッドルームでも演奏された「夜空の星」は、14歳の時に作曲したものだ。
「原曲はソナチネとまでは行かないけど、バイエルくらいのレベルのピアノの練習曲として作ったんだね。後ろで 聴いていた親父が「それは何の曲だ」というんで「俺が作ったんだ」。「ほうすごいな」と言われたのがきっかけですね、大学卒業までに10 曲くらい作ったかな。その中に「恋は紅いバラ」もあったんですよ。
 どんな世界にもパイオニアがいる。  
 その人が登場するまでは、顧みられることのなかったスタイルが一世を風靡する。そこから大きな流れが始まって行く。

加山と作詞家・岩谷時子の出会いの曲は「恋は紅いバラ」。初めて会ったのは1963年頃で、岩谷はその時の加山の印象を「日本男子の古風な厳しさと、おおらかで明るい西洋の男の良さとを併せ持った男性」と、著 書『愛と哀しみのルフラン』で披露している。「君といつまでも」では、66 年の日本レコード大賞で、加山は特別賞を、岩谷は作詞賞を受賞した。「夜空の星」「お嫁においで」「旅人よ」「ぼくの妹に」「海その愛」など、 岩谷作詞、弾厚作作曲の作品は149作にのぼるという。

 彼がバンドを最初に組んだのは、1957年。20歳の慶應義塾大学の学生時代。カントリーロックのバンドだった。ビートルズ登場以前である。エレキギター、ロックバンド、作詞作曲。どれを取ってもそれまでの日本の音楽シーンでは主流ではなかった。
「ずっと英語で歌ってましたからね。原語でカッコ良く行こうぜ、というところから始まってましたから。日本のアーティストが日本語で洋楽を歌うのが恥ずかしくてたまらなかったんですね。日本語でと言われた時も、どうにもならないという気持ちでした。でも、それがヒットしたわけですからね」
 日本語で歌うようになったきっかけが1965年の「恋は紅いバラ」である。作詞・岩谷時子、作曲・弾厚作、歌・加山雄三。弾厚作というのは、団伊玖磨と山田耕筰を合わせた彼のペンネームであることの説明は不要かもしれない。彼は「岩谷さんとの出会いがなかったら、今の自分はない」 と、ことあるごとに話している。「恋は紅いバラ」は、1963年の映画『ハワイの若大将』の中では英語で歌われていた。

映画『若大将』シリーズで加山の恋人〝澄ちゃん〟を演じた星由里子と撮影時の写真。

 加山雄三が僕らに見せてくれたもの。その多くは映画『若大将』シリーズの中でのものと言って良いだろう。
  以前、『歌に恋して~評伝岩谷時子』 を書いた時に話を聞いた南こうせつ は、「ラジオで『恋は紅いバラ』を聴いた時は驚きましたねえ。曲はプレスリーなのに詞は日本語。聞けば大学は慶應でヨットにスキーもやっている。我が家ではまだ薪で風呂を焚いてましたからね。日本にこんなにカッコいい人がいるのか、衝撃でした」と言った。
 羨望と憧れ。そんな風に映画に胸をときめかせたのは南こうせつだけではない。加山雄三の還暦を祝って97年に制作されたアルバム『60candles』には、カールスモキー石井、THE ALFEE、チューリップ、高橋幸宏、槇原敬之、甲斐よしひろ、さだまさし、TUBE、玉置浩二、森山良子、 徳永英明ら、その後のJ-POPシーンを支えてきたビッグネームがずらりと並んだ。


2017年4月1日 Vol.31より

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