22.04.28 update

第2弾「昭和歌謡アルバム」沖田浩之、城卓也、仲宗根美樹、松山恵子、藤圭子

 以前、オリジナル歌謡曲の制作・放送をするABCラジオの音楽番組があった。そこから生まれた曲には、フランク永井の「こいさんのラブコール」、北原謙二の「ふるさとの話をしよう」などがあるが、異例ともいわれる2か月間流され続けた歌があった。昭和36年に仲宗根美樹が歌った「川は流れる」である。その後、歌声喫茶でも大評判の曲となり、100万枚を超える大ヒットとなった。仲宗根美樹は、その年の日本レコード大賞新人奨励賞を受賞している。

 仲宗根美樹は沖縄の血が脈打つ南国のエキゾチックな顔立ちで、「川は流れる」を歌ったときは17歳だったが、陰影のあるアンニュイな歌声は、とても高校2年生だとは思えない表現力で、当時、〝松尾和子のハイティーン版〟と呼ばれたという。翌年には市村泰一監督で映画化され、桑野みゆき、園井啓介、月丘夢路、大坂志郎らと共に、仲宗根自身も出演している。そのほかにも、NHK大河ドラマ「源義経」、TBS系で放送されていた「木下恵介アワー」の「記念樹」などにも出演していた。そう言えば、昭和39年公開の映画『愛と死をみつめて』では、吉永小百合の恋人マコ役を演じた浜田光夫が、病院の屋上で「川は流れる」を歌っていたのが記憶に残っている。「川は流れる」は、誰もが口ずさめる、巷に流れた歌だった。

仲宗根美樹

 仲宗根美樹が「川は流れる」で紅白に初出場したのは、リリースの翌年の昭和37年で、同じく初出場の白組松島アキラと共にトップバッターを務めている。この年には、吉永小百合、弘田三枝子、五月みどり、北原謙二、植木等らも初出場を果たしている。紅白には5回出場しているが、昭和38年には艶やかな琉球の衣装で「奄美恋しや」を歌っていた。仲宗根はキングレコードの所属で、当時のキングレコードの女性歌手たちには勢いがあった。仲宗根も出場した昭和40年のメンバーを見てみると、白組にも三橋美智也、春日八郎などキング所属の歌手が出場しているが、紅組は、江利チエミ、ペギー葉山、ザ・ピーナッツ、梓みちよ、岸洋子、伊東ゆかり、倍賞千恵子と、25組中8組がキング勢だった。ちなみに、岸洋子はシャンソン歌手で、「夜明けのうた」「希望」(いずれも日本レコード大賞歌唱賞受賞)などのヒット曲で知られる。それにしてもすごいメンバーだ。

 

 さらに時代をさかのぼってみよう。日本マーキュリーレコードSP版(78回転)時代の昭和30年にデビューした松山恵子。その後、昭和33年には東芝レコードに移籍している。マーキュリー時代から「未練の波止場」が大ヒットして、昭和32年には同曲で、NHK紅白歌合戦に初出場を果たしている。松山と同じ年の紅白初出場組には、島倉千代子、朝丘雪路、フランク永井、俳優の高田浩吉らがいる。

 その後、「あんた泣いてんのネ」と語りかけ、「だから言ったじゃないの」と歌い出す「だから言ったじゃないの」も大ヒットし、流行語にもなった。そして「お別れ公衆電話」「思い出なんて消えちゃえ」「アンコ悲しや」「別れの入場券」などヒット曲を連発した。庶民派で知られ、〝おけいちゃん〟の愛称で幅広いファンに親しまれた歌手だった。落語家の立川談志もファンだと公言していた。〝おけいちゃん節〟とも言える、語尾の独特のビブラートが今も耳に残る。

 松山恵子と言えば、裾の幅が広い(なんと裾幅3.5メートル)、重さ20キロ以上のフリフリのドレスに髪にはティアラ、そして白いレースのハンカチに、時にはロングの手袋がトレードマークで、〝おけいちゃん〟の声がかかると、ハンカチを振りながら応え、愛敬たっぷりにしゃがみこんでドレスに埋もれてみせ、喝采を浴びていた。

松山恵子

 昭和38年まで7年連続で紅白に出場したが、その後出場は途絶え、26年後の平成元年に第40回紅白歌合戦にカムバックし、裏面全体にバラの花を飾った裾幅直径2.5メートルの純白のドレスで登場、初出場のときに歌った「未練の波止場」を熱唱し、健在ぶりをみせた。この年から紅白歌合戦は2部制になり、1部の「昭和の紅白」に雪村いづみ、ペギー葉山、春日八郎、三波春夫らと共に出場したのだった。また、ピンク・レディーとザ・タイガースの復活、都はるみの復帰など、話題の多かった紅白歌合戦だった。松山恵子を紹介するのは、応援でかけつけた歴代紅組司会者の森光子、中村メイコ、黒柳徹子の3人で、黒柳は「この方のドレスがすごいんです。直径が2メートル半です」と紹介していたことを思い出す。おけいちゃんが手にしていた白いハンカチは、ラストで紅いハンカチに変わっていた、というのも〝昭和の紅白〟らしい演出。歌合戦だもの、こうでなくっちゃ。カメラは客席の反応までとらえていた。〝おけいちゃん〟のかけ声と共に、ゲスト審査員の千代の富士、西田敏行、先代中村勘九郎(18代目中村勘三郎)をはじめ観客を大いにわかせたのは言うまでもない。

 この年の紅白に出場したことからも、昭和を語るのに欠かせない歌手だったことがよくわかる。懐メロ番組にも欠かせない存在だった。紅白では一度も歌わなかった「お別れ公衆電話」を今、聴いてみたい。

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