シチュー三昧

~男一人の洋食屋~

 

時には洋食の名店でシチューのランチと洒落てみたい。
芳醇なソースの香り、煮込まれた肉塊……ちょっと高値で、若かった頃のレストランの憧れはシチューだった。
ビーフシチューあり、タンシチューあり︑、ホワイトシチューも見逃せなかった。
昼どきに、酒っ気もなく、じっくりとシチューのソースを味わうのも大人の男の贅沢なひとときなのだ。
 

名店のビーフシチューに狙いを定めて

 

 たまにはレストランでおいしいものをいただいてみたいが、身支度して、ワインとって、フルコースもおおげさだ。もっと気軽にしたい。

 ランチだな。せっかく行くのなら評ある老舗にしよう。そういう店の味や居心地を知っておくのもよいことだ。一度入っておけば、どなたかをお誘いもできる。

 気に入れば夜に本格的なコースも。結婚記念日に家内を喜ばせてやるか。 娘の卒業式の夜、連れていってやるか。 男同士は居酒屋でよいが、女性を誘うにはやはりレストランだろう。

 そういう楽しみも秘めて、とりあえず大人の男の一人ランチ。しかし何を注文しよう。レストランだから前菜 スープ、魚、肉と何でもある。誰かと一緒なら相談する楽しみもあるが、一人では自分で決めない限り永遠に決まらない。メニューを開いてから迷うよりも決めておこう。昼だから単品、ハンバーグじゃ子供っぽい。

 そうだ〈ビーフシチュー〉だ。これのないレストランはない。よーし決めた。

 台東区根岸の「香味屋」は、装丁家・佐野繁次郎の独特の書き文字ロゴとともに、老舗レストランとして名高い。下町の雰囲気を残す町並みに控えめな玄関を入ると、中はたいへん広く明るく、アイボリーホワイトのテーブルクロスをかけた四人がけテーブルがゆったりと配置され、ビュッフェなどの絵がかかる落ち着いた雰囲気だ。

 繁華街ではない場所だから、そんなに混んでないだろうと思いきや、一階はゆったり食事するグループで満席、周り階段から二階席へ案内され着席した。

「いらっしゃいませ」
 フォーマルな黒スーツに蝶タイのウ エイターが厚いメニューブックを置いた。
「ビーフシチューを願います」
「うけたまわりました」
 待つことしばし。天井高く、花模様のレースカーテンを透かせた光がさんさんと入り、これはよい席だ。春の午後、よい年齢の男一人客もわるくないな。

……続きはVol.39をご覧ください。

おおた かずひこ

グラフィックデザイナー、作家。BS11の「太田和彦の ふらり旅 新・居酒屋百選」(毎週日曜日よる9:00~9:54)が好評放映中。


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