CULTURE SCRAMBLE

『命みじかし、恋せよ乙女』

女優・樹木希林のラストメッセージ

文=川口 力哉

  樹木希林さんの遺作ということで大注目を浴びる本作は、ドイツと日本、この世とあの世、現実社会の光と闇、それぞれのコントラストを鮮やかに映し出した人間ド ラマである。人間ドラマというジャンル分けは、女性広報担当者様からのアドバイスによる。

「これはホラー映画ということでいいんですよね」と上映後にお聞きしたところ、担当さんからの一 言。「これは人間ドラマなんです……」。どうやらかなりのKY発言だった模様(笑)。私的には人間ドラマかと問われると、大きく首を振ってホラー映画と形容してみても面白いのにと考えている。英題には、『悪魔=Demons 』と いう言葉が含まれており、冒頭からドイツ人監督の日本の妖怪に対する興味と執着、とりわけ〈ろくろ首の女〉を多分に意識した映像 はストーリーの方向性を暗喩する。

  主人公のドイツ男カール(ゴロ・オイラー)は、重度のアルコール依存症である。別れた妻子に会おうにも、まともに会うこともできず、酒に逃げては絶望の淵を彷徨う中、ある日突然日本からやって来たユウ(入月絢)という女性と出会う。まるで救世主のように主人公の前に現れたユウはカールに語りかけてゆく。

「あなたは今のままでいいの。愛してる」
 
社会から拒絶され、アルコールに溺れ、自らの存在意義を見失っていた主人公の人生に小さな明か りが灯った瞬間でもあった。とそんな矢先、ユウは忽然と姿を消してしまう。運命に導かれるように、 ユウの姿を追って来日したカール。わずかな手がかりを頼りにたどり着いた神奈川県茅ケ崎海岸の旅館で、年老いた女将(樹木希林)と出会い、物語の核心に迫ってゆく。

 

樹木希林の役どころこそが本作の核心

 

  まさに本作をまたいで本当にあの世へと旅立っていた樹木さんの存在感は、ストーリーの中のこちらの世界とあちらの世界をつなぐシャーマン的な役割を体現してい る。

  本作はこの世とあの世を行き来するシーンが多いだけに、その狭間にあるグレーな世界描写がいくつかある。そしてそんなあの世とこの世を線引きする存在であり、 ストーリーにリアリティを与える存在でもある樹木希林の役どころこそが、本作の核心だったと言えよう。こんな役柄を自然にさらりとこなせてしまう樹木希林とは一 体何者だったのだろう。同じスク リーンの中で誰の存在も侵すことなく、それでいて女優としての毅然とした地位と役者としての自然 な演技をフルに魅せることができた稀有な存在だったとつくづく感 じた次第である。樹木希林さんのファンの方もそうでない方も、女優樹木希林の最期の大芝居を見届けて欲しいと願うばかりである。

  公開は夏ということなので、肝を冷やしたいホラー映画好きな皆さんにもおススメの一作である。

『命みじかし、恋せよ乙女』

 

監督・脚本:ドーリス・デリエ
出演:ゴロ・オイラー、入月絢、樹木希林

8月16日(金)TOHOシネマズ シャンテ他にて全国 順次公開
配給:ギャガ

©Constantin Film Verlein GmbH/Mathias Bothor


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