◆特集コラム 劇団俳優座80年の役者たち Vol.2◆
2024年2月10日に創立80周年を迎える「劇団俳優座」。劇団俳優座で活躍した名優たちをクローズアップしてお届けする。第2回は、加藤剛(1938年2月4日 – 2018年6月18日)。
ご存命だったら、86歳の誕生日が間近だ。静岡県生まれの加藤は高校進学で上京した。高校時代にチェーホフの戯曲を読んで俳優を志したという加藤は、早稲田大学4年のときに20倍の難関を突破して、61年の卒業と同時に12期生として養成所に入所した。13期生として終了時の同期生には、石立鉄男、横内正、細川俊之、佐藤友美らがいる。64年に俳優座に入団し、『ハムレット』の傍役で初舞台を踏む。65年には安部公房作、千田是也演出の『お前にも罪がある』の主役に抜擢され、2時間出ずっぱりの連続演技で魅せた。映像でも62年のテレビドラマ「人間の條件」の主役をはじめ、ドラマ「大岡越前」、NHK大河ドラマ「風と雲と虹と」「獅子の時代」、「剣客商売」、5時間半を超える3夜連続の大型時代劇で石田三成を演じ、余人をもって代えがたい演技と好評を得た「関ヶ原」、映画『上意討ち 拝領妻始末』、『戦争と人間』シリーズ、『忍ぶ川』、『砂の器』、『新・喜びも悲しみも幾歳月』など実に多くの作品で印象深い演技を見せている。
特に、1970年(昭和45)3月に始まった「大岡越前」は、「水戸黄門」「江戸を斬る」とローテーションを組みながら、月曜日夜8時のTBSの看板番組で加藤の代表作でもある。「大岡越前」で共演をした竹脇無我とは、私生活でも長い付き合いだった。
加藤剛自身が提案したという1982年の『波-わが愛』(写真左)の上演。83年には『門-わが愛』(写真右)を、86年には『心-わが愛』を上演した。『心-わが愛』の演技では文化庁芸術祭賞を受賞している。そして、91年には〝わが愛三部作〟を一挙上演し、紀伊國屋演劇賞個人賞と芸術選奨文部大臣賞を受賞した。『波』は山本有三の原作、『門』は夏目漱石の『三四郎』『それから』に続く前期三部作の最後の作品であり、『心』も漱石の『こころ』が原作である。加藤剛は、この三作で、俳優座に日本近代文学路線を敷いた。『波-わが愛』は78年に、『門-わが愛』は73年に、TBS系列の金曜ドラマ枠で放送され、いずれも加藤剛が主演している。『波-わが愛』には秋吉久美子、桃井かおり、倍賞千恵子らが共演し、『門-わが愛』には星由里子、山崎努、山内明、荒木道子、神山繫、そして俳優座の岩崎加根子、永井智雄も出演していた。〝わが愛〟シリーズでもそうだが、加藤剛という俳優は、画面や舞台に品格をもたらす凛とした存在として、多くの人々に認識されていた。
2001年には俳優座創立55周年記念作品映画『伊能忠敬 子午線の夢』で、伊能忠敬を99年の舞台版に続いて演じている。
2018年に亡くなった加藤剛を偲ぶお別れ会で、俳優座代表として挨拶をした岩崎加根子は「正義感が極めて強く、個性的で、あくまで純粋に演劇を追求していく俳優でございました」と偲び、「(加藤の)退場は、俳優座にとりましても大きな痛手でございますが、故人の美徳を損なうことなく全力を挙げ劇団の発展に尽力いたす所存でございます」と語った。