私の生前整理

画家、江見絹子(母)の遺作

文=荻野アンア

 

片づけられない私

 

  片付けられない女を自認している。子供の頃は、遊び散らかしたら、次の場所に移って、また遊び散らかす。後を追って片付けて回るのは母親だった。我慢の限界で、母は担任の教師に泣きついた。 「あまり厳しく言っても、お嬢さんの個性が伸びませんよ」

  おかげさまで個性は伸びたが、苦手の整理は今も暗雲となって頭の上に垂れこめている。

  一人っ子の私には配偶者も子供もいない。親戚との縁も薄い。溜まりきった本や服も、価値のあるものは無い。頓死したら誰かが犠牲者になって、全てを捨てるしかないだろう。

  そんな私にも、かげがえのない宝物がある。母は江見絹子という名前で抽象画を描いていた。戦後の女流画家の草分的な存在である。100号や200号の大作だけでも約百点、アトリエに残されている。

  アトリエは私と同い歳だが、ブロック建築でびくともしない。居住部分は増築の際、母が壁の色から床材まで目を届かせて、いわば手塩にかけた作品となっている。家ごと美術館にしたい、と県立美術館に相談をした。

  学芸員が来て、絵の保存状態をチェックしてくれた。素人の目にも明らかなヒビの入った作品がある。カビや汚れは、言われなければ気がつかなかった。

  頑丈と見えたアトリエは、温度や湿度の管理がなされておらず、結露が顕著で、母が亡くなってからの数年で一挙に絵の劣化が進んでいた。

……続きはVol,43をご覧ください。

おぎの あんな

小説家、慶應義塾大学文学部教授。1956年、神奈川 県生まれ。91年「背負い水」で芥川賞を受賞。2002年『ホラ吹きアンリの冒険』で読売文学賞を受賞。08年 『蟹と彼と私』で伊藤整文学賞を受賞。近著に『カシ ス川』。他の著作に『或る女』『電気作家』など。

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