私の生前整理

父、母を看取って

文=久田 恵

 

見事なまでに〝整理〟して逝った母

 

 私は二十歳の時に「素手で自分の人生を切り拓く」と勇ましい書き置きを残して家を飛び出した娘だった。

 その私が、やっと物書きとしての自立の道が見えたかなあ、という時だった。突然、母が脳血栓で倒れ、介護生活に突入。

その時、私、三十九歳。しかも幼い息子を抱えたシングルマザー。「もう、たいがいにしたら?」と母に誘われ、十八年ぶりに実家に舞い戻ってわずか一年後の事だった。

 かくして、落ち着くことのなかった私の放浪人生は、この母の介護をきっかけに激変した。押しピンで留められたみたいに「家」にとどめられ、身動きのできない事態となった。

 その「お出掛け不自由」な時代がなんと二十年。実家に居候状態のまま、物書き業を続け、子育てを終え、母を看取り、父を看取り、気が付いたら自分が老年期の入り口にさしかかっていた。

 そんな私なので、「生前整理」の事を考える間もなく過ごしてきた。

 けれど、あらためて思えば、放浪の末に実家に身一つで居候したため、家も家具も食器も衣服もすべてが両親のもの。整理すべき自分のものがほぼない。しかも、私の両親は自分の不要なもの、遺したくないものは整理し切って逝った人たちで、その見事なすっきり具合に遺された娘の私は、寂しさのあまりに、「なんてことだ!」と涙に暮れてしまったくらいなのだ。

 そう言えば、六十代で倒れ半身不随と失語症となった母は、車椅子の不自由な身で、いつも大きなビニール袋にいろんなものを次々と放り込んで片づけていた。

……続きはVol.41をご覧ください。

ひさだ めぐみ

ノンフィクション作家。1947 年生まれ。上智大学文学部を中退し、さまざまな仕事を経て、女性誌のライターに。1990 年「フイリッピーナを愛した男たち」(文藝春秋)で、第21 回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。子どもの不登校に関する親子同時ドキュメント「息子の心、親知らず」で平成9 年度文藝春秋読者賞受賞。著書に、「シクスティーズの日々」(朝日新聞社)、「100 歳時代の新しい介護哲学」(現代書館刊)など。2018 年3月栃木県那須町のサービス付きコミュニティ住宅に移住。

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