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【箱根びと訪問】伝統と格式を守りながらイノベーションする、「山のホテル」には〝不易流行〟という哲学がある

小山 哲史

「小田急山のホテル」支配人 兼開発リニューアル担当課長



愛着のあるホテルに4度目の赴任

 
 三菱の創業者岩﨑彌太郎の甥で、4代目総帥の岩﨑小彌太男爵の別邸を引き継ぎ、1948(昭和23)年に開業した由緒ある「山のホテル」が、私の初めての赴任地でした。20年間のこれまでのホテルマン人生のなかで、「山のホテル」は通算すると11年間携わり、今回は4度目の赴任になります。

 2024年1月に「箱根ハイランドホテル」の支配人に就任し、2027年秋オープンをめざした大規模なリニューアルの責任者としての任務も課されました。約1年後の2025年5月7日には箱根ハイランドホテルのクロージングを体験し、同年の10月から「山のホテル」の支配人も兼務しています。

 「箱根ハイランドホテル」も、実業家・團琢磨が1925年に建てた西洋館の別邸を引き継いだ、格式高いリゾートホテルです。リニューアルにあたっては、長年定宿にしてくださっていたファンの皆さんから、「今のままでも魅力的」という惜しまれる声と同時に、「リニューアル後、また行きます」といった期待の声もいただいています。約2年半という長い工事期間をかけ、謂わば、新しく生まれ変わるホテルの諸々の業務に携わることは、ホテルマンとしても稀有な体験です。期待と気が引き締まる思いが交錯しています。

 私は2006年に小田急系列のホテルの一括採用を経て、「山のホテル」に配属されました。学生時代、飲食のアルバイトの体験から、人と接することで相手に喜ばれる、そんな地に足がついた仕事に就きたいと思うようになりました。銀行や生保、損保などの金融機関に就職する同級生が多かったなかで、ホテル業界に就職した私は異色でした。

「箱根の山のホテルに就職した」と親戚や友人に話すと、「知ってる知ってる、すごいホテルに入ったんだね」と、「山のホテル」を評価してくれる人が多く、とても誇らしかったことを覚えています。念願の接客の仕事は、フランス料理の「ヴェル・ボワ」、日本料理の「つつじの茶屋」の両方の飲食サービス業務から始まり、次いでフロント業務を経験しました。2025年10月に支配人として古巣に戻ってきた安心感とともに、伝統と格式のあるホテルの重みを感じています。変えてはならないこと、変えてゆくべきこと、いわば〝不易流行〟の哲学がこのホテルの根幹にあります。

左は版画家・川瀬巴水が描いた昭和10年頃の庭園、右は令和8年1月14日の庭園の風景。ツツジやシャクナゲは、箱根の寒さを乗り越え、庭園を色鮮やかに彩る。



岩﨑小彌太男爵の庭園を守り後世に伝える役目

 
 たとえば、「山のホテル」の魅力の一つに、広大な敷地を誇る庭園があります。岩﨑小彌太男爵の別邸当時、約3000株のツツジと約300株のシャクナゲが植えられました。男爵が留学していたイギリスから取り寄せたシャクナゲ〈ゴーマー・ウォータラー〉は、日本に最初に輸入された西洋シャクナゲと言われています。版画家の川瀬巴水は、富士山と咲き誇るツツジやシャクナゲが咲く、この庭園の美しい風景を後世に残しています。昭和10年頃の作品で、現在ホテルのロビーに飾ってありますが、現在の景観とほぼ同じです。この絶景に吸い寄せられるように、日本のみならず世界各地から観光客が訪れる名所になっています。
 庭園には、江戸時代を代表するツツジ「江戸キリシマ」や日本原産のシャクナゲが100年以上経った今も現存していますが、私たちはその貴重な財産を守り継承していかなければなりません。

左は、男爵が留学先のイギリスから輸入した「ゴーマー・ウォータラー」、右は「八重げら」。山のホテル庭園プロジェクトの一環として、庭園にあるツツジ・シャクナゲのDNAを残す活動があり、採取した枝(穂木)が協力している花き農家に送られ、農園のビニールハウスの中で挿し木で約2年間育成されてからホテルに戻ってきて、庭園に植えられる。


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