20.07.08 update

画家に戻る場所、心を癒す場所

箱根彩彩 2018年4月1日号より

文=八代亜紀


箱根は私の第二のふるさと

 私にとって歌は命、絵はそれを支える精神です。

 父は画家を目指したほど絵が好きで、私も4歳の頃から絵画教室にも通って、画家になることが夢でした。 絵画教室では一番幼く、上級生に交じって写生に出かけるとき、最前列で白い髭の先生に手を引かれて行く光景を今でも覚えています。

 箱根にアトリエを持ちたくて随分探しましたが、念願の強羅にアトリエを作ったのは20年以上前です。以来、月2 回、3日から4日の滞在で箱根に籠ります。このスケジュールは何をおいても最優先。季節ごとに鋏とカメラを持って花を摘みに行き、アトリエには 窯もあり陶芸をやる主人のつくった陶器に花を生け、「光と影」をじっくり観察して緻密に色を重ねます。

 私の作風は写実的なルネサンス期の手法です。毎年5ケ所ほどで個展を開きますので、年間最低でも100点は描かなければなりません。箱根を下りてコンサートや番組出演をしたあと、絵の具の乾いた頃に戻るので、色を重ねるのにとてもいいリズムなのです。ですから箱根との距離感は、歌手・八 代亜紀と画家・八代亜紀のリズムがぴったり合うのです。

 箱根は富士山が望め、温泉もあり、 食べ物も美味しいし、月も星もきれい。 東京からわずか1 時間ちょっとの距離なのに、森があって、朝は鳥のさえずりで目が覚めます。冬、夜中にキャンバスに向かっていると、「ホー、ホー」 というミミズクの鳴き声がして、それを真似て私も「ホー、ホー」と。ミミズクたちの会話の中に入ると、一瞬シーンとなって、ミミズクと遊んでいるようで、童心に帰れるひとときです。

「良い絵を描くには焦ってはいけない」と丁寧に色が重ねられていく

〝はこね親善大使〟として

 制作中はスタッフも一緒にアトリエに寝泊まりし、まるで合宿のようですが、私は寝食を忘れるほどの集中力でキャンバスに向かいます。そして一息つくと温泉に浸かる。最高に幸せな瞬間です。箱根は私にとって、心を癒してくれる場所なのです。

 2015年のゴールデンウィークのころから約4年間、大涌谷の火山活動の影響で、大好きな箱根の町が元気のない時期がありました。そんなとき箱根町役場から〝はこね親善大使〟に、という要請があり、「箱根のみなさんに明るい話題を提供したい、箱根のためにお手伝いしたい」と、快くお受けいたしました。小田原市と提携して小田原市民会館でコンサートを開催したり、一日警察署長や、森林セラピーのゲスト、強羅の夏祭りのステージで歌うなど、箱根町からいただくスケジュールは可能な限り参加しています。

 老後はこのまま箱根で暮らしたい。箱根から月2、3回「コンサートに行ってきます」と旅立つなんて素敵でしょう。演歌とロックの音楽フェスタもやりたいですし、大涌谷で郷里の八代市産の茣蓙を敷いてみんなで星空を眺める会もやりたい……。こんなこと、あんなことができるのではないかと、たくさんのアイデアが浮かんできます。東京オリンピック・パラリンピックの2020年は、歌手デビュー50周年にあたり、その恩返しに、みんなで協力して箱根をもっともっと盛り上げていきたいです。

やしろ あき
1971年デビュー。「愛の終着駅」「もう一度逢いたい」 「舟唄」等数々のヒット曲を出し、80年「雨の慕情」で第22回日本レコード大賞・大賞受賞。98年より画家の登竜門と言われる世界最古の美術展、フランスの「ル・サロン」で5年間入選を果たし永久会員になる。15年11月〝はこね親善大使〟、16年には〝日本モンゴル文化大使〟も任命され、モンゴルとの文化交流にも貢献している。

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!