24.07.22 update

昭和39年、純愛ドラマの先駆けとなった東芝日曜劇場「愛と死をみつめて」のミコ役で、一躍ブラウン管のトップ・スターになった石井ふく子プロデューサーの秘蔵っ子 大空眞弓(女優)

 現在も続くTBS系列の日曜劇場は、現存するすべてのテレビドラマ枠で最も長く、唯一50年代から継続している番組である。2002年9月までは東芝日曜劇場と呼ばれていた。93年3月28日までは単発ドラマとして製作され、1877回続いた。大空眞弓が初めて出演したのは、19歳のとき、59年放送の山本周五郎原作、市川染五郎(現・松本白鸚)共演の「桑の木物語」だった。その後、61年から3回にわたって作られた三浦哲郎作の「忍ぶ川」を経て、「愛と死をみつめて」で花開く。32作が放送された「カミさんと私」や山岡久乃とのコンビによる「〇月の恋」などのシリーズ作品もあり、日曜劇場の常連女優となっていった。900回記念で池内淳子、京塚昌子と共演の「雛の出合い」、1100回記念で系列局5社が競作した「愛と人間」、1200回記念「女たちの忠臣蔵」、1500回記念「花のこころ」など、節目の回にはほとんど出演している。

 1000回記念のときのデータでは、出演回数74回と、90回出演の1位の池内淳子に次ぎ2位だった。「カミさんと私」の京塚昌子、「天国の父ちゃんこんにちは」の森光子、「女と味噌汁」の池内淳子、山岡久乃、長山藍子など、多くの女優たちが日曜劇場から育った。日曜劇場はテレビ女優の歴史と言えるだろう。また、高峰秀子、京マチ子、山本富士子、岡田茉莉子、若尾文子、佐久間良子、浅丘ルリ子、吉永小百合、大原麗子など、映画女優たちもテレビ出演の初期から日曜劇場に出演している。

 日曜劇場以外にも、大空と石井プロデューサーとの縁は深く、石井プロデュースのTBS系列木曜20時の連続ドラマ「ただいま11人」「青春の条件」「ありがとう」「今日だけは」「心」「ちょっといい姉妹」などをはじめ、渥美清と共演した「大きい目小さい目」、「時間ですよ」の第1シリーズ、日本最初の女医・荻野吟子を描いた渡辺淳一原作の「花埋み」、カトリーヌ・アルレー原作のミステリー「わらの女」、平幹二朗、小川真由美共演の松本清張原作の「愛と死の砂漠」、NHK大河ドラマ「春日局」での淀役、倉本聰脚本の「やすらぎの刻~道~」での元女優役と、メロドラマ、ホームドラマ、コメディ、女の一生もの、翻訳ミステリー、歴史もの、と芸域も広いが、自分の意見をズバリ言い、口喧嘩ではかないそうもない、少々勝気な、だが真っすぐな性格の女性を演じるとき、大空眞弓は輝いて見えた。

 沖縄・宮古島生まれの父親の血をひく黒い大きな瞳と南国の血統らしいエキゾチックな顔がチャーミングで、声もよく通り、東洋音楽短期大学声楽科に在学していただけあって歌もうまい。その声は舞台で活かされ、62年に初代・水谷八重子、芥川比呂志、田宮二郎共演の『黒蜥蜴』で初舞台を踏んで以来、森繁久彌主演のミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』、菊田一夫演劇賞を受賞した浜木綿子と共演の『人生は、ガタゴト列車に乗って……』、日夏京子役で森光子と共演した『放浪記』、浅丘ルリ子、加藤治子と共演の『夜叉ケ池』、大地真央共演のミュージカル『マイ・フェア・レディ』、仲代達矢、十朱幸代と共演の『ジョン・ガブリエルと呼ばれた男』など数多くの舞台作品で魅力を発揮している。

 だが、やはり大空眞弓と言えば、質の高い、見応えのある意欲的なテレビドラマが作られていた昭和30年代、40年代、50年代にテレビの成長とともにテレビが育てた女優だと思っている。昭和37年(1962)に創刊したテレビ誌の草分け的存在である「TVガイド」の第6号(62年9月8日号)では早くも表紙を飾っている。その後も、63年3月1日号、64年3月13日号、67年2月28日号(日曜劇場「カミさんと私」のメンバー伊志井寛、京塚昌子、山本學と)、74年3月8日号(日曜劇場「雛の出合い」の池内淳子、京塚昌子と)という具合である。現在84歳だが、先日「徹子の部屋」に出演しているのを見たが、よく通る声は健在だった。「やすらぎの刻~道~」でもいい味を出していたが、テレビ界は、大空眞弓のような年代の女優にもっと光を当ててもらいたい。佐久間良子、浅丘ルリ子、岩下志麻、倍賞千恵子、この年代の女優たちは生命力にあふれていて、観る者に感動をもたらしてくれるのだ。

文=渋村 徹

※プロマイドの老舗・マルベル堂では、原紙をブロマイド、写真にした製品を「プロマイド」と呼称しています。ここではマルベル堂に準じてプロマイドと呼ぶことにします。


マルベル堂
大正10年(1921)、浅草・新仲見世通りにプロマイド店として開業したマルベル堂。2021年には創業100年を迎えた。ちなみにマルベル堂のプロマイド第一号は、松竹蒲田のスター女優だった栗島すみ子。昭和のプロマイド全盛期には、マルベル堂のプロマイド売上ランキングが、スターの人気度を知る一つの目安になっていた。撮影したスターは、俳優、歌手、噺家、スポーツ選手まで2,500名以上。現在保有しているプロマイドの版数は85,000版を超えるという。ファンの目線を何よりも大切にし、スターに正面から照明を当て、カメラ目線で撮られた、いわゆる〝マルベルポーズ〟がプロマイドの定番になっている。現在も変わらず新仲見世通りでプロマイドの販売が続けられている。


マルベル堂 スタジオ
家族写真や成人式の写真に遺影撮影など、マルベル堂では一般の方々の専用スタジオでのプロマイド撮影も受けている。特に人気なのが<マルベル80’S>で、70~80年代風のアイドル衣装や懐かしのファッションで、胸キュンもののアイドルポーズでの撮影が体験できるというもの。プロマイドの王道をマルベル堂が演出してくれる。
〔住〕台東区雷門1-14-6黒澤ビル3F


読者の皆様へ
あなたが心をときめかせ、夢中になった、プロマイドを買うほどに熱中した昭和の俳優や歌手を教えてください。コメントを添えていただけますと嬉しいです。もちろん、ここでご紹介するスターたちに対するコメントも大歓迎です。

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2024.09.13
    アメリカ合衆国、内戦勃発!再び起こり得る〈南北戦争...

    10月4日(金)全国公開

  • 2024.09.13
    国立西洋美術館「モネ 睡蓮のとき 」観賞券

    応募〆切:10月10日(木)

  • 2024.09.12
    堤真一&瀬戸康史、大東駿介&浅野和之という2組によ...

    公演:東京、大阪、福岡

  • 2024.09.12
    谷村新司、堀内孝雄、元モーニング娘の安倍なつみ、や...

    水越恵子「Too far away」

  • 2024.09.12
    SOMPO美術館「カナレットとヴェネツィアの輝き」...

    応募〆切:10月10日(木)

  • 2024.09.11
    新選組・副隊長の土方歳三をニヒルな風貌と演技で天下...

    土方歳三の雛型を創り上げた栗塚 旭

  • 2024.09.05
    引きこもりの愉しみ─萩原 朔美の日々   

    第22回 キジュからの現場報告

  • 2024.09.05
    尾上松也、瀧内公美、段田安則らが織田作之助の『夫婦...

    東京、愛知、大阪公演

  • 2024.09.05
    今年4月、84歳で逝ったいぶし銀のような名バイプレ...

    佐川満男「今は幸せかい」

  • 2024.09.04
    上村松園の渾身の名作《雪月花》三幅対も公開!皇居三...

    9月10日(火)~10月20日(日)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial