21.02.25 update

吉永小百合が憧れた 女優・芦川いづみ

プロマイドで綴る
わが心の昭和アイドル&スター

大スター、名俳優ということで語られることがない人たちかもしれないが、
青春の日々に密かに胸をこがし、心をときめかせた私だけのアイドルやスターたちがいる。
今でも当時の映画を観たり、歌声を聴くと、憧れの俳優や歌手たちの面影が浮かび、懐かしい青春の日々が甦る。
プロマイドの中で永遠に輝き続ける昭和の〝わが青春のアイドル〟たちよ、今ひとたび。

企画協力・写真提供:マルベル堂

©マルベル堂

 霧の桟橋を赤木圭一郎と芦川いづみが歩いている。そして航海士の赤木は芦川に別れを告げ船に乗り込む。そこに赤木が歌う主題歌が流れる。昭和35年公開『霧笛が俺を呼んでいる』のラストシーンだ。同じ日活の小林旭主演の『ギターを持った渡り鳥』と並び、このラストシーンは、時代を経てテレビなどで観ても、その度に映画館で映画を観ることが最高の娯楽だった昭和の匂いのあの映画館へと連れて行ってくれる。父と母と一緒に映画を観た小学生のあの日が総天然色で甦る。

 そして、芦川いづみは色褪せることなく、あの頃と同じように、僕の胸をキュンとしめつける。芦川いづみは僕にとって、憧れのお姉さんでもあり、同時に僕を少年時代に体験した映画館の匂いと景色の中に引き込む女優である。実は僕にとって日活映画のヒロインは浅丘ルリ子だったが、芦川いづみは、ルリ子嬢とは別の、僕の青春のひきだしに入っている女優なのだ。

 やはり昭和35年公開で、裕次郎と共演した石坂洋次郎原作の『あじさいの歌』での清純な令嬢役も忘れ難い。芦川いづみには『乳母車』『陽のあたる坂道』『あいつと私』など石坂作品がよく似合った。清純派の代名詞のような女優だった芦川が『硝子のジョニー・野獣のように見えて』(昭和37年)で演じた白痴のヒロインは、今までに観たことがない芦川との出会いだった。初めて見せるへの字口の変顔表情や、無垢な笑顔、そのすべてにヒロインの孤独や悲しみを浮かび上がらせる哀切感がただよっていたような気がする。芦川自身が選ぶベストワンだという。

 昭和43年に当時日活で格下だった俳優の藤竜也と結婚し、あっさりと引退してしまった。そのことで人々の記憶に彼女が一層美しく存在しているかもしれない。イラストレーターの故・安西水丸さんは、芦川いづみと聞くと一瞬にして自身の青春時代が浮かんでくると言い、「もう、芦川いづみのような女優は出てこないだろう。芦川いづみは世界に一人しかいない人だから」と語っていた。芦川、浅丘、吉永小百合、和泉雅子が四姉妹を演じた『若草物語』(昭和39年)も、日本映画の青春時代の1本として偏愛的におススメしたい。

文:渋村 徹(フリーエディター)

プロマイドのマルベル堂
大正10年(1921)、浅草・新仲見世通りにプロマイド店として開業したマルベル堂。2021年には創業100年を迎えた。ちなみにマルベル堂のプロマイド第一号は、松竹蒲田のスター女優だった栗島すみ子。昭和のプロマイド全盛期には、マルベル堂のプロマイド売上ランキングが、スターの人気度を知る一つの目安になっていた。撮影したスターは、俳優、歌手、噺家、スポーツ選手まで2,500名以上。現在保有しているプロマイドの版数は85,000版を超えるという。ファンの目線を何よりも大切にし、スターに正面から照明を当て、カメラ目線で撮られた、いわゆる〝マルベルポーズ〟がプロマイドの定番になっている。現在も変わらず新仲見世通りでプロマイドの販売が続けられている。

マルベル堂 スタジオ
家族写真や成人式の写真に遺影撮影など、マルベル堂では一般の方々の専用スタジオでのプロマイド撮影も受けている。特に人気なのが<マルベル80’S>で、70~80年代風のアイドル衣装や懐かしのファッションで、胸キュンもののアイドルポーズでの撮影が体験できるというもの。プロマイドの王道をマルベル堂が演出してくれる。
〔住〕台東区雷門1-14-6黒澤ビル3F

読者の皆さまへ

あなたが心をときめかせ、夢中になった、プロマイドを買うほどに熱中した昭和の俳優や歌手を教えてください。コメントを添えていただけますと嬉しいです。もちろん、ここでご紹介するスターたちに対するコメントも大歓迎です。

映画は死なず

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