「続・氷点」以降、島田陽子といえば、テレビドラマでは育ちの良い、曲がったことが許せない知的な良家の子女というイメージの役が多かった。いわゆる当時の〝清純派女優〟の筆頭的存在だった。中野良子、沖雅也共演の石坂洋次郎原作ドラマ「光る海」でも、才女的な役柄の中野良子と好対照の美人の誉れ高い女性を魅力的に演じていた。鰐淵晴子、石立鉄男共演の65年版では山本陽子が、吉永小百合、浜田光夫共演の映画版では十朱幸代が同役を演じている。中村雅俊主演の「われら青春」(74年)では正義感の強い英語教師、「華麗なる一族」(74年)では万俵家の次女二子(映画版では酒井和歌子が演じていた)、田宮二郎が財前五郎を演じ遺作となった78年の「白い巨塔」では東教授の令嬢佐枝子を演じた。そのほかにも、ショーケンと共演した「くるくるくるり」(73年)、近藤正臣共演の「ほおずきの唄」(75年)など、しっとりとした女性像を任としていたように記憶する。火曜サスペンス劇場の記念すべき第一作、松本清張原作の「球形の荒野」(81年)でもヒロインを演じ、三船敏郎、香川京子らと共演している。
72年の森谷司郎監督作『初めての愛』以来、映画でも印象に残る多くの作品に出演している。74年には松本清張原作、野村芳太郎監督『砂の器』で事件の鍵を握る女として登場。75年には、テレビでも同役を演じた『球形の荒野』のヒロイン、そして市川崑監督『吾輩は猫である』。さらに、76年、横溝正史ブームを巻き起こした角川映画第1作として市川崑監督がメガホンをとり、石坂浩二が初めて金田一耕助を演じた『犬神家の一族』では、ヒロインの野々宮珠世役をみずみずしく演じている。70年代は、映画でもヒロインとして、引っ張りだこだった。同時代には中野良子、松坂慶子、仁科明子(現・亜希子)らが、テレビドラマや映画で華を競っていた。
そして、80年、アメリカのテレビドラマ「将軍 SHOGUN」で、細川ガラシャを思わせるヒロイン・まり子を演じ、ゴールデングローブ賞のテレビシリーズ ドラマ部門で、女優賞を受賞して、一気に〝国際女優〟として認識されることになる。ちなみに本作は、ゴールデングローブ賞の作品賞、男優賞(リチャード・チェンバレン)も受賞している。そこから、島田陽子の中で女優としての意欲、野心というものが芽吹いたのだろうか、それ以降は、映画やテレビドラマでも新たな領域で、それまで演じてきたヒロイン像とは違う〝おんな〟のイメージを見せ始めたような気がする。テレビ東京の12時間超ワイドドラマ「花の生涯 井伊大老と桜田門」(88年)での村山たか役(井伊直弼は北大路欣也、長野主膳は三浦友和)、横溝正史シリーズ「悪霊島」(91年)の巴御寮人などのテレビドラマ、映画では内田裕也と共演した88年公開の『花園の迷宮』などが、その例と言えるだろう。
あくまで個人的な趣味で言えば、〝国際女優〟と呼ばれる以前のほうが、女優としての魅力があったような気がしている。良くも悪くも「将軍 SHOGUN」は、女優・島田陽子のその後を変えてしまったような気がしてならない。本年、突然の死が報道されて以来、女優としての仕事以外のことでしか語られないことが残念でならない。島田陽子は70年代に華を咲かせた、やはり語るべき女優である。
文:渋村 徹(フリーエディター)
※プロマイドの老舗・マルベル堂では、原紙をブロマイド、写真にした製品を「プロマイド」と呼称しています。ここではマルベル堂に準じてプロマイドと呼ぶことにします。
マルベル堂
大正10年(1921)、浅草・新仲見世通りにプロマイド店として開業したマルベル堂。2021年には創業100年を迎えた。ちなみにマルベル堂のプロマイド第一号は、松竹蒲田のスター女優だった栗島すみ子。昭和のプロマイド全盛期には、マルベル堂のプロマイド売上ランキングが、スターの人気度を知る一つの目安になっていた。撮影したスターは、俳優、歌手、噺家、スポーツ選手まで2,500名以上。現在保有しているプロマイドの版数は85,000版を超えるという。ファンの目線を何よりも大切にし、スターに正面から照明を当て、カメラ目線で撮られた、いわゆる〝マルベルポーズ〟がプロマイドの定番になっている。現在も変わらず新仲見世通りでプロマイドの販売が続けられている。
マルベル堂 スタジオ
家族写真や成人式の写真に遺影撮影など、マルベル堂では一般の方々の専用スタジオでのプロマイド撮影も受けている。特に人気なのが<マルベル80’S>で、70~80年代風のアイドル衣装や懐かしのファッションで、胸キュンもののアイドルポーズでの撮影が体験できるというもの。プロマイドの王道をマルベル堂が演出してくれる。
〔住〕台東区雷門1-14-6黒澤ビル3F
あなたが心をときめかせ、夢中になった、プロマイドを買うほどに熱中した昭和の俳優や歌手を教えてください。コメントを添えていただけますと嬉しいです。もちろん、ここでご紹介するスターたちに対するコメントも大歓迎です。