20.08.27 update

“NO STAGE,NO LIFE”劇場のある豊かな暮し

中止すべきか進むべきか
正解がない状態


――3月13日の『ピサロ』の初日へと向かうなか、コロナ問題が深刻な状況になってきました。
佐藤 日々刻々と変化していきましたよね。『ピサロ』の担当プロデューサーと演劇事業のマネジメントスタッフのみんなと毎朝事務所に集まっていました。その時点で決定的だったのは、2月26日に出された「スポーツや文化イベント等について今後2週間は中止、延期、規模縮小等の対応」という要請でしたね。ちょうど、『ピサロ』が稽古場から劇場へ入るという段階でした。粛々と稽古場での稽古を重ね、いよいよ劇場に入ろうとする段階での要請は応えましたね。本当にこのまま進められるのかと、キャスト、スタッフからも心配の声があがっていました。進めていいのか悪いか、正解がない状態だったじゃないですか。他の劇場で、2月末から3月初めに予定されていた公演が軒並み中止になっていく中で、やめなければいけないのか、続けていくには何が必要なのかというのを、日々みんなで討論していました。2月までやっていたパルコ・プロデュース『FORTUNE(フォーチュン)』(東京芸術劇場プレイハウス)という公演が東京、松本、大阪とまわり北九州が最後だったのですが、北九州の1公演は実施して残り4公演は中止になりました。それが最初に中止になった公演でした。

3月13日初日の『ピサロ』は1週間遅れで初日を迎えたが、トータルで10公演だった。
PARCO劇場5月公演のオープニング・シリーズ第2弾の佐々木蔵之介さん主演『佐渡島他吉の生涯』は残念ながら中止の決断をした。

――いずれの結論を出すのか、葛藤があったのではないでしょうか。
佐藤 日々話し合う中、今この時点でやめたら、何を拠りどころにして復活するんだという明確な理由が見えない状況だし、でもこのまま進めたら、進むのもいばら、やめるのもいばらと、いろんなせめぎ合いがありました。芝居のカンパニーとしては続けていこうという意思があっても、お客様はどう受け止めるのだろうか、それにパルコという会社としての判断も関わってきます。われわれエンタテインメント事業部が向き合っているお客様と、会社が向き合っているお客様、株主の方々もいらっしゃるわけですから、いろんな角度から考えなければいけないわけですが、会社側は、エンタメ事業部の演劇事業という立場でお客様に向き合うことが、会社の意思とイコールになるからという姿勢をとってくれたので、やめるにしても進むにしても、どちらにもできたのですが、事業体それぞれに、たとえばテレビ局はテレビ局としての方針があるでしょうし、小劇場も死活問題だからやり続ける方向をとったでしょうし、いろいろな情報を精査し、状況を見ながら判断していったということですね。


――『ピサロ』の初日は当初の一週間遅れでした。
佐藤 初日の前々日くらいに「パルコは予定通り初日を開けます」という宣言を担当役員からカンパニー内にしたのですが、直後に、WHOのパンデミック宣言により一転、昨日やると言った口で、翌日にはやはり中止ですと言わざるを得ない状況でした。日々刻々と変わる状況の中で、本当に先が読めなくて、正しいあり方はどうなのかと、修正を加えながらやっていましたね。結局、初日は3月20日に開けることができましたが、トータルでは10回の上演になってしまいました。その後、飲食関係の休業の要請にともなう、夜間と週末の外出自粛要請に対しても、演劇界というのは真摯に対応していたと思います。4月7日の緊急事態宣言の発出とともに、PARCO劇場5月公演のオープニング・シリーズ第2弾の佐々木蔵之介さん主演『佐渡島他吉の生涯』の中止を決めました。そしてPARCO劇場での上演の演目だけでなく、新国立劇場での『裏切りの街』など他劇場でのパルコ・プロデュース作品も後に中止としました。緊急事態宣言のときに、今後予定されているすべての公演が今どんな進行状況で、中止にしたらどういう影響が出るのか、企業ですからお金の面ももちろんありますが、集まってくださっているキャスト、スタッフたちがその作品に対してどういう気持の段階なのかということも含めて、担当プロデューサーから作品ごとに話をしてもらいました。


――休館中はどんなことを考えていましたか。
佐藤 心を痛めることがいろいろありすぎて。ゴールデンウイークくらいまでは収束はしないよと1月ころにすでに言われていたのが、本当にそういう状況になってしまっていて、希望的観測なんかまったく意味がないのだと思い知ったわけです。すでに秋の公演を中止するところも出てきていました。春の段階で半年以上先の公演が中止になっていくのを見て、それを考えると年内の公演再開さえもが危惧されていた状況にあって、夏以降の公演に関して、どうのようにモチベーションをもって向き合っていくのかと話し合いをしていても誰もが不安だし、大丈夫なんて誰も言えない。底の見えないモヤモヤというものが本当にありましたね。

1 2 3

映画は死なず

新着記事

  • 2024.12.19
    NHK紅白歌合戦の変遷をたどってみたら、東京宝塚劇...

    石橋正次「夜明けの停車場」

  • 2024.12.18
    坂本龍一が生前、東京都現代美術館のために遺した展覧...

    音と時間をテーマにした展覧会

  • 2024.12.18
    新しい年の幕開けに「おめでたい」をモチーフにした作...

    年明けに縁起物の美を堪能する

  • 2024.12.17
    第26回【キジュからの現場報告】喜寿を過ぎて─萩原...

    これからは地方の都市に住むかもしれない……

  • 2024.12.12
    ベルリン国際映画祭金熊賞受賞!桃農家を営むスペイン...

    スペインの桃農家のできごと

  • 2024.12.12
    三菱一号館美術館 再開館記念「不在」─トゥールズ=...

    リニューアル後初の展覧会

  • 2024.12.12
    作曲家・筒美京平がオリコン週間1位を初めて獲得した...

    いしだあゆみ「ブルー・ライト・ヨコハマ」

  • 2024.12.09
    リチャード・ギアも出演した黒澤明監督の『八月の狂詩...

    数々の「老女」役で存在感をみせた村瀬幸子

  • 2024.12.09
    泉屋博古館東京「企画展 花器のある風景」観賞券

    応募〆切:1月20日(月)

  • 2024.12.07
    中山美穂さんの大ヒット映画『love Letter...

    河井真也さんの追悼の言葉

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!