20.08.27 update

“NO STAGE,NO LIFE”劇場のある豊かな暮し

万全な感染症対策で臨んだ
7月1日の劇場再開

――PARCO劇場の再開は7月1日でした。
佐藤 緊急事態舞台芸術ネットワークなど、いろんな横のつながりの情報も含めて6月からは再開できるという光明がなんとか一つ見えてきたこともあり、6月20日初演の三谷幸喜さん作・演出の『大地』の上演が実施できるという希望が見えてきましたが、かろうじて6月1日から稽古場に集まり、稽古をスタートできたとしても、6月20日までには3週間しかありません。普段でも4週間くらいの稽古期間をとるところ、しかも新作です。もし、3週間でなんとか初日を開けますよと目標を掲げも、スタッフ、キャストたちプロダクション全員の合意をまずとらなければいけない。一人でも感染予防対策に関して不安だったらできないので、そこは本当にデリケートに担当プロデユーサーが向き合って進めてくれました。加えて、キャストにもそれぞれ家族も事務所もあるので、そこでの考えもありますよね。だから、どこまでやっても正解がない中で、パルコとしては感染拡大予防対策にも万全の準備をするし、対外的にもこういう姿勢でやりますということを明らかにしますし、というのを根回ししながらやっていく過程で、初日を7月1日にずらしてやりましょうと準備を進めました。ただ、『大地』のチケットは完売していて、前後左右一席空けるという入場者数制限の中で、チケットを購入してくださったお客様全員に来ていただくことは無理なので、チケットをすべて払い戻して、約半分を再販売するという準備も同時にやっていました。


――演劇の形態として無観客生配信という方法論を考えたことは。
佐藤 当然、みんなのアイデアの中にはありました。たとえば『ピサロ』は初日前に公演中止が決定した段階で、担当プロデューサーが直ちに動いて予定していたWOWOWの収録を急遽前倒して行いました。だから、ご覧いただけなかったお客様に観ていただく手段はできていました。緊急事態宣言中は、劇場に人が集まれる状況ではなかったですし、『ピサロ』は出演者も多く、そんな状況下で配信のために俳優が集まってもいいのかということになりますので、収録ができていて本当によかったですね。パルコの他の公演では、稽古開始後に中止になったという作品はなかったので、もし舞台稽古という段階までいっていたら、無観客生配信という形態を考えていたかもしれないです。その後の再開からは、現在もそうですが、前後左右一席空けて感染予防対策を取らなければいけないので、当然上演すればするほど赤字です。再開第一作の『大地』も、完売していたチケットを感染症対策のためすべて払い戻したことで、観られなくなったお客様のためにも、また減収入を補うためにも週末には有料で、7台のカメラを使って生配信しました。今後の公演でも実施していく予定です。

6月20日初演予定だった三谷幸喜さん作・演出の『大地』
PARCO劇場の再開は三谷幸喜作・演出の『大地(Social Distancing Version)』により、7月1日に幕を開けた。コロナ騒動以前にチケットが完売していたため、再開に際してはすべてを払い戻して、約半数を再販売するという準備も必要だった。劇場で観られなかった観客のために、週末には有料で公演の生配信も実施した。今後の公演でも続けていく予定だ。撮影:阿部章仁
7月27日から8月7日まで上演されたPARCO MUSIC STAGE『三谷幸喜のショーガール』は、1974年から88年まで上演された当時のPARCO劇場を代表する人気シリーズ『SHOW
GIRL』の作・構成・演出を務めた福田陽一郎に三谷が最大限のリスペクトを込め2014年にスタートし、すでに人気演目となっている。主演の2人は細川俊之と木の実ナナから、川平慈英とシルビア・グラブに受け継がれた。今回は“Social Distancing Version”と謳われ、コロナ禍を意識した巧みな演出が施されている。撮影:阿部章仁

――7月27日から8月7日までの『三谷幸喜のショーガール』は、(Social DistancingVersion)と謳われていましたが、コロナ禍ということで演出を変えたのですか。
佐藤 状況を見極めた上で、『大地』と同様、三谷幸喜さんと担当プロデューサーが協議して客席のみならず、舞台上も〝ソーシャル・ディスタンス〟になりました。川平慈英さんと、シルビア・グラブさんがほぼほぼ距離をとって演技をするので、キスも手を握ることもNGで、近づき過ぎると警告音が鳴り、手の消毒もあれば、アクリル板のパーティションも用意されたり、とコロナ禍を逆手にとった新たな演出が施され、制約がある中での上演ながら、お客様にも久しぶりに劇場でステージを観るという醍醐味を堪能していただけたようで、まさに〝NO STAGE,NO LIFE〟という、演劇従事者なら誰もがいだく思いを実感させてもらえました。

俳優たちは大丈夫ですよと
お客様に言える感染症対策


――9月公演の『ゲルニカ』の稽古が始まっていると思いますが、今、どのような思いで、公演準備をしていますか。


佐藤 この先、どのようになるのかはまったくわからない状況下での準備ですから、また公演中止になりかねないという不安は常に抱えていますし、考えざるを得ないですね。具体的にキャスト、スタッフとも話をしています。そのときのためにいろいろな方法論を考える中で、一部の劇場でマスクやシールドをつけて上演するという形態での公演もありましたが、通常の演出と変わってしまうのであればやりたくないと、演出の栗山民也さんはおっしゃっています。それは当たり前のことですが、そうすると、マスクをしているお客様と同じ空間にマスクをしていない役者たちがいる、そのことへのお客様の不安を取り払わなければいけないわけです。客席の感染症対策であり、俳優たちも感染していませんよと明言できるかどうか。ということで、稽古に入る前、稽古中劇場に入る前、公演中、さらに地方に行く前、PCR検査をキャストとスタッフ全員が受けるということを考えています。それが一概に正しい方法論ということではなく、パルコ・プロデュース公演のプロダクションの中ではそれをやっていきましょうということです。俳優たちにはマネージャーという存在がつきものですが、マネージャーの方々でさえも稽古場や劇場の楽屋の立ち入りをご遠慮いただいていて、稽古場を今の日本で一番安全な場所にします、と言えるくらいのレベルで話をしています。稽古場、劇場の感染予防マニュアルも作っていますが、別のお仕事の現場もあるし、家庭もあるし、結局は自己管理をしていただかなければいけないのです。食事の店一つにしても危険と思われる場所には行かないでくださいとか、ジムもやめようねとか、大の大人を相手にそんな話までしていますが、みんなが同じ気持になってやっていかないとだめですし、誰か一人でもそこからはずれるとそこで止まってしまいます。稽古場が止まらないように誰かが発熱して検査するまでのタイムラグがあったとしても、稽古を続けられるようにアンダースタディ(主要な役を演じる俳優の緊急事態に備えて、その役の稽古をして公演期間中待機している俳優で、初めから稽古に参加している)も入れます。初日に向かって全員が気持を一つにしてクリエーションすることが大切なのだという思いを共有することでしょうか。お客様の前に俳優たちに出てもらう以上、俳優たちは全員大丈夫ですよと言えないといけないと思っています。

◆『ゲルニカ』
9月4日(金)~9月27日(日)
◆“ねずみの三銃士”第4回企画公演『獣道一直線!!!』
10月6日(火)~11月1日(日)

――来年の公演の話などもすでに始まっていると思いますが。
佐藤 今年中止になった公演を来年以降、いずれかのタイミングで上演できればということも含めて話は進んでいます。今年中止になった作品が上演できるまで舞台に立ちたくないという俳優さんもいらっしゃいますし。まずは9月の『ゲルニカ』であり、10月の“ねずみの三銃士”第4回公演『獣道一直線!!!』が、無事初日を迎えることができ、何事もなく公演スケジュールを全うできるように気を抜くことなく日々努めていくことですね。『
獣道一直線!!!』は、宮藤官九郎さんが毎回脚本を手がけられていますが、今回は俳優として初出演することも決定しています。コロナウイルスに感染し復帰した、宮藤さんが新作を書き下ろし、そして出演もなさるというのは、演劇界にとってとても大事なことで、大きなトピックです。演劇界のみならず、今コロナで苦難を強いられていらっしゃる人々にとっても、大きなエールになるのではないかと期待しています。


――演劇に携わる立場として今伝えたいことは。
佐藤 食べること寝ること同様、演劇という娯楽が人々の生活、人生に必要なものなのか、不要不急のこととしてコロナ禍のような大事においては諦めなければいけないものなのか、というような議論は別として、心を豊かにするというような意味において、本や絵画、写真、映画などと同様、日々の生活に必要なものなのだという思い。エンタテインメントに関わる誰もが、そう信じているからこそ、そこに人生を預けていると思うんです。ただ、危険を顧みず劇場に来てください、なんてことは言えませんが、必要ではないというような悲しいレッテルを貼られないようにはしたいなとは思います。だからこそ、芝居を上演するために、お客様に劇場で芝居を観ていただくために、その対策に労を惜しむ演劇人はいないと思います。演劇クラスターとか、劇場クラスターだとか、そう言われないようにみんなが万全を期して新型コロナウイルスと向き合っています。

PARCO劇場
[住] 渋谷区宇田川町15-1渋谷パルコ8F
[問] パルコステージ 03-3477-5858(時間短縮営業中)
https://stage.parco.jp


1 2 3

映画は死なず

新着記事

  • 2024.12.19
    NHK紅白歌合戦の変遷をたどってみたら、東京宝塚劇...

    石橋正次「夜明けの停車場」

  • 2024.12.18
    坂本龍一が生前、東京都現代美術館のために遺した展覧...

    音と時間をテーマにした展覧会

  • 2024.12.18
    新しい年の幕開けに「おめでたい」をモチーフにした作...

    年明けに縁起物の美を堪能する

  • 2024.12.17
    第26回【キジュからの現場報告】喜寿を過ぎて─萩原...

    これからは地方の都市に住むかもしれない……

  • 2024.12.12
    ベルリン国際映画祭金熊賞受賞!桃農家を営むスペイン...

    スペインの桃農家のできごと

  • 2024.12.12
    三菱一号館美術館 再開館記念「不在」─トゥールズ=...

    リニューアル後初の展覧会

  • 2024.12.12
    作曲家・筒美京平がオリコン週間1位を初めて獲得した...

    いしだあゆみ「ブルー・ライト・ヨコハマ」

  • 2024.12.09
    リチャード・ギアも出演した黒澤明監督の『八月の狂詩...

    数々の「老女」役で存在感をみせた村瀬幸子

  • 2024.12.09
    泉屋博古館東京「企画展 花器のある風景」観賞券

    応募〆切:1月20日(月)

  • 2024.12.07
    中山美穂さんの大ヒット映画『love Letter...

    河井真也さんの追悼の言葉

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!