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「人間国宝」と呼ばれて30年、88歳の鍛金家・奥山峰石は「一代一職」を座右の銘に、なお匠の技を追い求める

─その後、伝統工芸会へ出品をされたるようになりました。

 
奥 山 40歳を前に、注文を受けて制作する職人の仕事に合間に、独自の作品を作り始め、東京美術銀器工業協同組合のコンクールに出品したところ、入賞できたのです。コンクールの審査員だった金工作家の田中光輝先生に「これだけできるんだったら作家を目指してみては」と伝統工芸展への出品をすすめられたのです。それまで作家になろうと考えていませんでしたし年齢的にも遅いのではと逡巡しました。毎週のように先生の工房に通うようになり、作品作りや出品の仕方も含め様々なことを教えてもらいました。田中先生との出会いがなかったら今の自分はありません。
 初めて出品したのが、本展にも出展している一輪挿しです。入選できず自宅で使っていましたが、半世紀近くなり、みなさんの目に触れようと出展しました。

 

 昭和57年に日本伝統工芸武蔵野展で奨励賞を受賞し、続いて春の伝統工芸日本金工展には入選できても芸術家の登竜門といえる秋の日本伝統工芸展には、4回連続落選した奥山さん。その4年間の苦しみは想像に難くない。ようやく平成元年5回目の挑戦で入選、日本伝統工芸展高松宮記念賞を受賞した。入選作の「赤胴鉢」は、手元に置いてあるそうだ。そして平成6年には、日本橋三越で初の個展も開催した。

 平成7年、晴れて重要無形文化財「鍛金」保持者(人間国宝)に認定され、東京都北区名誉区民にも選定された。

 

奥 山 素質がないから作家なんてやめようと何度も思いました。けれども「自分にはこの道で行くしかないんだ」とその一念だけでした。


▲奥山さん宅の応接室には、たくさんの賞状が飾られているが、中でも嬉しかったのが、平成7年に人間国宝の認定をされた後、平成9年の紫綬褒章の受賞だったという。その翌年には歌会始にも招待されている。展覧会には作品とともに、座右の銘「一代一職」の力強い書が、奥山さんの心の在り方を物語っている。



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