銅や銀の合金など、硬くて鍛造が難しい素材を叩いて火にかけ叩いて火にかけ、美しい造形に仕上げられた器に、自然の情景をモチーフにした文様を、「打込象嵌(うちこみぞうがん)」や「切嵌象嵌(きりばめぞうがん)」という技法で表現する。丹精込められて、金属が放つ繊細で優雅な見目麗しい作品が高く評価されていった。
─人間国宝に認定されてからのことを伺います。
奥 山 伝統工芸の金工の世界で重要無形文化財保持者(人間国宝)として認定されたときは、ついに自分もこの仕事で一番になれたのかと思いました。周りからも称賛を浴びました。嬉しかったのはもちろんですが、人間国宝となっても今まで通り職人の仕事をしながら作品作りもできると思っていた。ところが注文が減ってしまった(笑)。「人間国宝」と呼ばれて妬まれることもありましたし、人が寄らなくなってしまったのです。女房も寂しかったのではないでしょうか。「人間国宝なんてやめてしまいましょう」と何度も言われました(笑)。しかし、作家としての仕事は、自分の思いを込め、イメージしたものを作ることができます。
─作品作りで難しいことはなんでしょうか。
奥 山 人と違うことをやりたくて、「打込象嵌」で、花や木といった自然をモチーフにした作品をつくりました。それまで幾何学模様を器に入れた作品はありましたが、新しい技法として認められたのでしょう。旅行に行って見た福島県三春のしだれ桜の美しさに感動し、春夏秋冬の姿を写真に撮って図に起こした作品や、故郷のお墓参りに行って見た雄々しい三本杉をデザインしました。このデザインが作品作りの中では一番難しく、時間がかかります。デザインを生かした器の大きさや形状が決まると、黙々と職人仕事に入ります。もし若い時に美術の勉強をしていれば違うのでしょう。ですから美術展に行って人の作品を見ないようにしていました。ほかの人の素晴らしい作品を見るとまねをしたくなります。難しくとも自分で考え、描いて作品作りをします。