25.09.11 update

新作舞台『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote 』で作&演出のKERAのイメージを具現化してみせる俳優・大倉孝二の仕事

 
 大倉孝二は舞台芸術学院を卒業後、1995年にKERA主宰の劇団ナイロン100℃に入団し、俳優の道への扉を開けた。

 
  「舞台芸術学院に入ったのは、俳優になろうという限定的な理由だったわけではなく、この世界に入ってみたい、舞台だけではなく、むしろ舞台なんてほとんど観たこともなかったので、映画やテレビも含めて、その世界を見てみたいなという理由でした。そんな漠然とした状態で入った世界ですが、気がついたら30年経ったという感じです。偶然の連続という感覚です。
 また、ナイロン100℃に入ったのは、学校が池袋の東京芸術劇場の近くにあったのですが、学校の先輩がやっているものくらいしか舞台を全然観たことがなく、そういう時期に学校の同級生たちの中で話題になっていたのがナイロン100℃や大人計画でした。ナイロン100℃は東京芸術劇場から徒歩5分のところで公演していて、近いのでそちらを観に行くことにして、そこに出演者オーディションの告知があったので、受けたという流れですね。当時、劇団がかなりの人数を募集していて、KERAさんがどんどん新しい人を見つけたいと思っているような時代でした。
 自身で初めてチケットを買って観たナイロン100℃の舞台は、自分が求めていたようなコメディ一色で、しかも、独特のセンスのコメディでした。ぼくみたいな演劇知識のない人間からしてみたら、見たこともない俳優さんしか出てこないわけですよ。だけど、みんな面白いんです。こんなことがありえるのだと、ちょっとびっくりしました。舞台に出たいとか、テレビに出るきっかけとかそんなことは何も考えていなくて、あの人たちが作っている現場に入ってみたいという思いで受けたんです。ぼくもそこに交じって出てみたいということさえもなかったですね。どうやって、あんなものを作ってるのだろうという興味だけでした」



 
 大倉はまた劇団以外の作品にも多数出演しており、特に野田秀樹とは『贋作・桜の森の満開の下』を皮切りに『赤鬼 日本版』、『NODA・MAP パイパー』、パリ公演も実施された『NODA・MAPエッグ』、『NODA・MAP 兎、波を走る』など縁が深い。出演作品ではKERAの次に多い。


 「野田さんのああいうダイナミズムみたいなものがある作品は初めての経験でした。野田さんの作品世界をまるまる理解できて出演しているわけではないんですが、なんだか人間の心をどこかに連れていってくれる、こういう演劇もあるんだなということを思いましたね。KERAさんにも通じることですが、知っていることだけをやっても面白くないという、どこか想像力とかいろんなものをジャンプさせてくれるものがぼくは好きで、野田さんはそのへんがやはりすごくて、面白いなと思いました。
 そして、ナイロン100℃でやっているかぎりKERAさんとの関係性として、どこかで主従関係とか、師弟関係とかそういうところがどうしてもあります。野田さんの芝居に出たときは、ぼくが無茶苦茶なことをやっても、いいよ、面白いな、やれやれっていう感じなんです。いい意味でも、悪い意味でもKERAさんとやるときは、自由にやっているという感じがないんですね。野田さんの現場にいるときに、何か少し自分を解放してくれたものがあった、そういう気がするんです」

 
 舞台生活も30年を数える大倉にとって劇団はどのような存在なのだろうか。


 「最初は劇団の芝居にしか出ていませんでしたが、最近は劇団での芝居をやる本数が少なすぎて、自分にとって劇団が何かということはちょっとわからないんです。劇団がどういう存在なのかなんて考えなくなりました。最近はむしろ劇団でやることのほうが難しいと思っています。それは、主宰者で、作家で演出家であるKERAさんとの関係性もそうですし、ほかの劇団員との関係性もそうですが、互いのことをいろいろと知っているが故に、難しさを感じることも多いんです。だから、ホームだからやりやすいとか居心地がいいというようなことは一切ないです。むしろ緊張関係がすごくあるのかもしれない」

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