突如として発生した毒性を持った正体不明のピンクの雲。それに触れると10秒間で死に至るというニュースが報じられる。ピンク色の雲の下、目の前に広がるのは、安住の地か、終わらない悪魔なのか。慣れ親しんだ日常が奪われ、望まぬ非日常が日常に変わろうとするとき、人間は何を欲望し、何を選択するのか。
ブラジルの新鋭監督イウリ・ジェルバーゼのデビュー作『ピンク・クラウド』は、2017年に脚本が書かれ、2019年に撮影された。当初SFとして構想されていたが、世界的なパンデミックで思いもよらぬ形で世界中で脚光を浴びた作品である。世界を襲った新型コロナウイルス感染症により、私たちはロックダウンを経験したが、ジェルバーゼ監督が本作で目指したのは、制限された状況下における生存競争ではなく人間の感情そのものを描くことだった。
STORY
一夜の関係を共にしていたジョヴァナとヤーゴをけたたましい警報が襲う。突如として発生した正体不明のピンクの雲。それは10秒間で人を死に至らしめる毒性の雲だった。緊急事態下、政府はロックダウンの措置をとり、家から一歩も出られなくなった人々の生活は一変する。友人の家から帰れなくなった妹、主治医と閉じ込められた年老いた父、自宅に一人きりの親友……オンラインで連絡をとりあううち、いつ終わるともしれない監禁生活のなかで、彼らの状況が少しずつ悪い方へ傾き始めていることを知るジョヴァナ。そして、見知らぬ他人であったジョヴァナとヤーゴも現実的な役割を果たすことを迫られる。父親になることを望むヤーゴに反対するジョヴァナだったが、長年のロックダウン生活の中で男の子・リノを出産する。パンデミック以前の生活を知らないリノは、家の中という狭い世界で何不自由なく暮らしており、父となったヤーゴも前向きに新しい生活に適応している。しかし、ジョヴァナの中で生じた歪みは次第に大きくなっていくのだった。
『ピンク・クラウド』
1月27日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
監督・脚本:イウリ・ジェルバーゼ
出演:ヘナタ・ジ・レリス、エドゥアルド・メンドンサ、カヤ・ホドリゲス、ジルレイ・ブラジウ・パエス、ヘレナ・ベケル
配給・宣伝:サンリスフィルム