岡山県に生まれた大西茂(1928–1994)は、北海道大学で数学を研究するかたわら、写真・絵画を越境する思索と創作で国際的に活躍した戦後日本美術の鬼才である。数理を究め、激しく躍動する造形表現を探求した大西の全貌が初めて紹介される。
リアリズムやジャーナリズムが写真の主流とみなされた時代、大西の写真はまさに「規格外」。多重露光、ソラリゼーション(白黒反転)、沸騰した現像液の不均一な塗布など、さまざまなテクニックを自己流で組み合わせ、激しく錯綜したイメージを作り出した。それらは「超無限」――大西の数学研究の核心にある難解な概念を直観させ、超越的なビジュアルを示すことになった。
戦後日本が躍動を始めた1950年代、大西は独創的な絵画作品を世に問うた。折しも、フランスの美術評論家であるミシェル・タピエが提唱する「アンフォルメル(否定形)」の旋風が日本美術界に吹き込まれ、関西から具体美術協会をはじめ多くの芸術家たちが、熱く激しい芸術表現を実践し始める。アンフオルメルに人知れず取り組んでいた大西の絵画は、タピエに見いだされて、同時代の評論家たちを瞠目させた。縦横無尽、怒涛のような線のうねりは圧巻で、幾何学抽象が「冷たい抽象」と呼ばれるのに対し、まさに「熱い抽象」と定義された。本展では、長辺2~3メートルの特大サイズの絵画も複数展示される予定。集散する墨の形象が見せる無限の広がりの中に、体ごと沈んでいくような感覚を体験できることだろう。
ミシェル・タピエによってヨーロッパにまで紹介された大西茂。しかし彼は世事や名利にとらわれることなく、ただひたすら“求道”の制作に没頭した。そのため生前の人的交流が希薄だったこともあり、没後しばらくの間、彼の芸術が広く語り継がれることはなかった。転機が訪れたのは2010年代、日本とフランスで写真展が開催されたことがきっかけだった。アンフォルメルの国際的展開に注目する欧米のキュレーター・美術史研究者の眼にとまり、その重要性が指摘されたのである。ニューヨークMoMAに写真作品が収蔵され、アムステルダムFOAMでは写真展が、バレンシアBombas Gens Centre d’Artでは写真と絵画による個展が開催されるに至る。本展では、現存する千点以上の写真と絵画の中から傑作を厳選して展示。加えて、大西のもう一つの「表現」である数学研究の遺稿をはじめ豊富な資料も展示され、その全貌を明らかにする世界初の機会となる。


大西茂 写真と絵画
会期:2026年1月31日(土)~3月29日(日)
会場:東京ステーションギャラリー(JR東京駅 丸の内北口改札前)
開館時間:10:00~18:00(金曜日は20:00まで) 入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日 *2/23、3/23は開館、2/24(火)
入館料:一般1,300円、高校・大学生1,100円、中学生以下無料
お問い合わせ:03-3212-2485
【東京ステーションギャラリー|公式サイト】https://www.ejrcf.or.jp/gallery/
観賞券プレゼント:5組10名様
応募〆切:1月25日(日)












