—老体からは逃げられない。でも笑い飛ばすことは出来る—
萩原 朔美さんは1946年生まれ、11月14日で紛れもなく77歳を迎えた。喜寿、なのである。本誌「スマホ散歩」でお馴染みだが、歴としたアーチストであり、映像作家であり、演出家であり、学校の先生もやり、前橋文学館の館長であり、時として俳優にもなるエッセイストなのである。多能にして多才のサクミさんの喜寿からの日常をご報告いただく、連載エッセイ。同輩たちよ、ぼーッとしちゃいられません!
連載 第9回 キジュからの現場報告
夜中4回は必ず起きる。一番ガックリするのは、もう朝か、と思ってトイレに行き時計(時間が知りたくて、小さな時計を置いた)を見ると、まだ一時間しか経過していない。この時の絶望感。(笑)再び布団をかぶる時の徒労感。(笑)
前立腺癌術後は皆んな、夜中の頻尿に悩まされるらしい。
この、何度も起こされる煩わしさを何か楽しみに転換出来ないかと考える日々。
トイレの壁に紙を貼りバツ印を書いてみた。
トイレに好きなオルゴールを置いた。
トイレに好きなアロマを焚いた。
トイレに「教訓カレンダー」を引っ掛けた。
トイレの電球をやたら明るくした。
トイレの壁に珪藻土を塗った。
今、一番気に入っているのは、
「一度起きると、起きた時間だけ若返る」
そう思う事だ。(笑)これは案外憂鬱から逃れられるおまじないだ。
時々、
「夜中起きると、その度に生き返っているのではないか」
と自分がゾンビになったような時もあるけれど。(笑)
第 6 回 認知症になるはずがない
第 5 回 喜寿の新人役者の修行とは
第4回 気がつけば置いてけぼり
第3回 片目の創造力
第2回 私という現象から脱出する
第1回 今日を退屈したら、未来を退屈すること
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。