第11回 会社を俯瞰で見る社長の立場だからこそ見えてきた攻めの姿勢

 社長として一番輝いていたのは、初代社長大川博だろう。映画会社にとっての時代の追い風も手伝って業績は上がるし、借金も全部無くし、財産まで作った。巨大に膨れ上がった東映という組織には、おそらく9000人くらいの東映社員がいたが、二代目社長の岡田茂は、どんな苦境にあっても社員を誰一人リストラしなかった。その点がまず、岡田茂の社長としての特筆すべきところだろう。そのために、なんとか立て直そうと考え、さまざまな分野に事業を拡大させた。その意味では、社員にとってはやはり名社長である。もちろん、借り入れも膨らむことになる。三代目社長になる高岩淡は、岡田茂の補佐役として二人三脚で立て直しに努めた人である。

 四代目社長に岡田裕介が就任した頃は、資金の借り入れ、社員を守るための借金だけが膨れ上がっていた。岡田裕介は、それを返済し続け、財務問題を解決した。映画会社としてその先に考えなければいけないのは設備投資ということになるが、その前に亡くなってしまった。我々の仕事はその意思を受け継ぐことである。興行部門や撮影所への設備投資、有能な人材の雇用により、新しい東映を創ろうということだ。資金が必要だったら銀行から借りればいい。岡田裕介の時代にはできなかった、設備投資へと動き出すことになる。

 設備投資をしないと会社は発展しない。会社が維持できれば借金を返済できるし、社員もみんな食っていける。だが、守りに入ると成長は止まる。私の性格からしても、いつも攻めの姿勢を忘れてはならないと考えている。ミスを恐れていると、先には進めない。現状維持して食っていければ現状維持が一番いいが、俯瞰で会社全体を見ていると、その先の状況がある時見えてくる。時代はどんどん先に進んでいく。

 社長という立場から言えば、やはり、第一に会社を潰してはいけないということを思う。潰さないぞという思いと、一方で、このままでいれば潰れるなという考えも起こる。私が社長に就任したときは、業績も良かったので、現状を維持すれば、なんとか食べていくことができ、会社を潰さずになんとかバトンを渡すことができるなという感じはあった。興行成績は良くないのに決算の数字はいい、という映画人にとっては皮肉な状況ではあった。

 だが、ハッと気がついたら、これからも、走り続けていかないと食べていけなくなるという景色が浮かんできた。それは、いずれの映画会社の社長の誰しもが感じていることだと思う。だから、新しいものを攻めていかなければならないということになるわけだ。東映は、昔はナンバー1の配給を誇っていたが、それは今考えるとやはり製作がフル稼働していたからである。

 自社で製作した良質のコンテンツがあったことで、映画館が潤っていたのだ。それが設備投資をしない時代が続き、映画をはじめとした良質のコンテンツ製作能力が無くなり、直営館というマーケットまで無くなっていたのでは、今後どうやって食べていくかと考えざるを得なくなったわけである。会長として、手塚社長と共に、東映グループの中長期ビジョンというものも考え、この2月に発表した。映像事業収益の最大化、コンテンツのグローバル展開へのチャレンジ、映像事業強化のための人的投資の拡大、持続的なチャレンジと成長を支える経営基盤強化を重点施策として今後10年間の成長投資を行っていく。

2023年1月に公開された、東映創立70周年記念作品『レジェンド&バタフライ』。濃姫との出会いからの織田信長の人生が、濃姫との夫婦関係を軸に描かれ、信長、濃姫はじめ明智光秀などの登場人物が、今までのイメージや歴史の通説にしばられることなく、自由な発想で描かれていて、ファンタジーの要素もある大型歴史大作である。信長と濃姫に、木村拓哉、綾瀬はるかという当代きっての最高のカップルがキャスティングされ、壮大なラブストーリーと受け取れた。木村拓哉の信長像には、これまでに多くの役者たちが演じてきたいずれの信長とも違う、新鮮な魅力があった。タイトルの〝バタフライ〟は、書物によって、濃姫が帰蝶、胡蝶とも呼ばれていたことによるものだろう。監督は、映画『るろうに剣心』シリーズ、NHK大河ドラマ「龍馬伝」の演出で知られる大友啓史、脚本は、現在放送中のNHK大河ドラマ「どうする家康」の古沢良太が手がけている。共演陣も豪華で、北大路欣也、中谷美紀、伊藤英明、宮沢氷魚、斎藤工、市川染五郎らが名を連ねている。かつて東映時代劇に多数出演していた北大路欣也が、濃姫の父親・斎藤道三役で出演しているのが、時代劇ファンにとっては嬉しい。
©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会©

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