第5回【私を映画に連れてって!】 大ヒット映画『ニュー・シネマ・パラダイス』を紹介した映画館〈シネスイッチ銀座〉

 当時、新宿に単館映画館<シネマスクエアとうきゅう>(1981~2014)があり、六本木に<シネヴィヴァン>(1983~1999)等と、映画館自体が文化のかおりを発していて、上映される作品のチョイスは憧れでもあった。特に<シネマスクエアとうきゅう>の椅子は座り心地も良かった。
 それまでメジャー展開の映画ばかりやって来て、小さくとも佳作と呼べる映画が創れたらと考えていた。最初は<シネセゾン渋谷>(1985~2011)と何か一緒に出来ないか話し合った。それから(当時の)全興連の会長と、<武蔵野館>と<新宿ロマン劇場>のリニューアルの話もあった。「予告編コンクール」というイベントを一緒にやっていた関係で、フジテレビで4時間半の「年間の劇場予告編すべて」を年末にCM無しで一挙放送等をやったこともある。そして、もう1つが籏興行の<銀座文化>(昭和30年代~)だった。
 その時は〝単館映画館〟をやりたいというより、渋谷・新宿・銀座を拠点にATG 的なことをやりたかったのだったと思う。僕が書いた企画書には「ATGのように年間12本の映画を月替わりで製作する……」とある。
 諸般の事情で、渋谷と新宿の話は流れてしまった。銀座文化は2スクリーンで1つは『ローマの休日』などの名画をやっていた。もう1つは松竹系で『寅さん』なども上映していた。ところが有楽町マリオンが完成し、松竹邦画系の劇場が同じ銀座地区に出来てしまった。これで、ますます興行は厳しくなっていた。

 そこで、提案したのが邦画と洋画を交互に上映するシステム。〝邦洋スイッチしながら〟という感じで地下の1館を<シネスイッチ銀座>と命名した。<銀座文化>の名を残す手もあったが、籏興行社長からも新しいネーミングで行こう! と。現在は2スクリーンで<シネスイッチ銀座1&2>となっている。
 邦画洋画、どちらもワンチームで製作や買い付けを行い、同じチームで配給、宣伝を行う。当時、ヘラルド・エースの原正人社長らには色々アドバイスをもらいながら、フジテレビ幹部との調整までもやっていただいた。配給はすべてヘラルド・エースにお願いした。

 当初の邦画12本の目論見は上司の一言「だいたいお前1人で12本作るのは無理だろう、出来上がっている洋画の新作を入れろ! うちのメインは大作とホイチョイみたいなメジャーだろ!」。御尤もで、このアドバイスが無ければシネスイッチは1年位で終了していたかも知れない。
 〝単館〟になったことで、それまでとは異なる、よりエッジの効いた企画がたくさん持ち込まれた。自分でも『泥の河』(1981)の小栗康平監督に企画(原作)を持って行ったが、その時は監督が『死の棘』(1990)の実現が第一で、かなわなかった。
 シネスイッチの最初の構想段階で、知り合いでもあった長崎俊一監督から『誘惑者』(1989)のシナリオの映画化の相談があった。ロバート・レッドフォードが主宰するサンダンス映画祭に日本人監督として初めて招かれ、そこでシナリオ制作も行なわれたとても面白い脚本だった。当時のフジテレビでは、実現化は極めて難しかったが、是非、何とかしたかった。

▲シネスイッチ12本目の上映作品となった、1989年公開の長崎俊一監督、秋吉久美子、草刈正雄共演の『誘惑者』。二重人格がテーマのラブ・サスペンス物語、あるいは、サイコ・スリラー物語と言ったほうがいいかもしれない。長崎監督が、日本人初のロバート・レッドフォード主宰のサンダンス・インスティテュートでの経験を経て完成させた映画で、パンフレットには、「この脚本は、ロバート・レッドフォードと、彼の主宰するサンダンス・インスティテュートの協力と助言によって完成されたものです。とりわけ、直接、指導にあたってくれたシドニー・ポラック、ジョージ・ロイ・ヒル、フランク・ピァソン、ウォルド・ソルトに感謝します」との監督の謝辞が紹介されている。秋吉、草刈共に魅力的で、今一度観たい映画である。第3回東京国際映画祭ヤングシネマ部門で、さくらシルバー賞を受賞した。

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