第9回 【私を映画に連れてって!】岩井俊二監督劇場長編映画第1作『Love Letter』で、中山美穂は多数の女優賞に輝いた

「GHOST SOUPゴーストスープ」(1992)という、深夜ドラマ枠「La cuisine」の1本で1時間弱の作品だった。テレビドラマなのに〝映画〟を観たような味わい。
 一方で、家で見たサザンオールスターズの「シュラバラバンバ」(1992)のPVは見る度に気になっていた。桑田佳祐さんの周りで踊るボディペインティングの女性たち。音楽と映像の見事なマッチング。
 この2つの作品を手掛けていたのが<岩井俊二>だった。しかも、後に気が付くのだが、サザンオールスターズのこの楽曲をプロデューサーとして手掛けていたのが『スワロウテイル』で一緒になる小林武史氏だった。

 珍しく、此方から銀座の中華料理に岩井俊二監督を誘った。
 僕は最も多くの映画を手掛けていた時期で、初対面で、此方から大作を含む企画を投げて見た。全く興味が無さそうで、彼から手渡されたのが『スワロウテイル』の原型に当たるロングストーリー(トリートメント)だった。こんな企画、ストーリーには出合ったことがなく、読み終わった時から「やろう!」と決めた。マイノリティー目線の群像劇のようで、社会性もあり、自分の関心、興味の度真ん中の企画だった。
 ただ、映画の実現化までにはここから3~4年の月日を費やすこととなる。
 当時、自身で設立した<シネスイッチ銀座>は『ニューシネマパラダイス』(1989年12月公開)のヒットなどのお陰で、邦画なら1億円程度の製作費は掛けられた。
 ずば抜けた才能は感じながら、初対面時では29歳で映画の経験は無く、この1億円のサイズが妥当とも考えた。ただ、架空都市で繰り広げられるストーリーには、オープンセットを組む等して、世界観を具現化する方が良いに決まっていて、そうすると4~5億円の製作費が想定できる。それはシネスイッチのサイズではない。
 2度目に会った時だろうか。この規模感のどっちを希望するか聞いてみた。答えは「高い方で……」。恐らく、「どちらでも」と答えられたら<シネスイッチ>の1作品として製作していたのかもしれない。
 映画のシナリオは2時間尺で、だいたい100ページプラスα(当時は1ページ1分と言われた)であり、製作費100万円でも100億円でもほぼ同ページだ。最初の第一歩とも言える、ここでの見極めがプロデューサーの最重要課題と言える。

「4~5億円」コースを選択した。もちろん、フジテレビの出資や製作は難しいであろう。予想通り〝中味〟の複雑な社会性(今の難民問題にも通じるが)に異論が多数だった。まあ、地味だった。それと製作費の回収の目途で誰も「黒字」になる予想が立てられなかった。そして、テレビ局として最も正論である「5億円かけてゴールデンタイムで何%数字獲れる?」の問いかけ。正直言って、10%以上の視聴率が獲れる気がしなかった。最低15%以上必須の時代だった。

▲2016年、第29回東京国際映画祭でのJapan Now部門で、『Love Letter』が上映された。同部門で開催された「監督特集 岩井俊二」の1作品として上映されたもので、そのほかには『リップヴァンウィンクルの花嫁』『スワロウテイル』『ヴァンパイア』『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』が上映された。上映後には、中山美穂と岩井俊二監督がトークショーを行い、観客からの、流行語にもなったセリフ「お元気ですか」の投げかけに、中山美穂は「わたしは元気です」と満面の笑みで応え、大歓声を浴びた。

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