new 24.09.03 update

十代の宮﨑あおいが三億円強奪事件実行犯を演じた『初恋』と、山田孝之主演で東野圭吾原作小説を映画化した『手紙』

1981年にフジテレビジョンに入社後、編成局映画部に配属され「ゴールデン洋画劇場」を担当することになった河井真也さん。そこから河井さんの映画人生が始まった。
『南極物語』での製作デスクを皮切りに、『私をスキーに連れてって』『Love Letter』『スワロウテイル』『リング』『らせん』『愛のむきだし』など多くの作品にプロデューサーとして携わり、劇場「シネスイッチ」を立ち上げ、『ニュー・シネマ・パラダイス』という大ヒット作品も誕生させた。
テレビ局社員として映画と格闘し、数々の〝夢〟と〝奇跡〟の瞬間も体験した河井さん。
この、連載は映画と人生を共にしたテレビ局社員の汗と涙、愛と夢が詰まった感動の一大青春巨編である。

 フジテレビ→ポニーキャニオン→アミューズと渡り歩いて、映画会社で映画製作をやりたい気持ちが強くなっていた。当時、上場会社でもあるGAGA(ギャガ・コミュニケーションズ)が新経営陣になることで、依田巽会長と宇野康秀社長から声をかけていただいた。依田会長の前職はエイベックス会長。その後、僕がGAGAを離れる頃は東京国際映画祭(TIFF)のチェアマンで、僕は、暫くTIFFのアドバイザーを仰せつかった。現在のGAGAは依田さんが率いてきた。

 宇野社長は、USEN代表(現取締役会長)であり、現在もU―NEXTの代表(創立者)として精力的に活躍している。『スワロウテイル』(1996)が大好きで、当時、新木場の日本最大規模と言えるスタジオコーストのクラブ<ageHa(アゲハ)>を作る時に、『スワロウテイル』のヒロイン「アゲハ」(伊藤歩)から名前を決めたことを本人から教えてもらった。

 フジテレビを辞めて転籍も考えていたが籍をおかしてもらい、GAGAの「執行役員映画製作部長」の肩書でスタートすることになった。

 気持ちは、はやっていたが〝組織内個人プレー〟はあまり許されず、仮にも執行役員なので、人事的な役割(権限)もあり、組織全体をまとめながらの仕事になった。宇野社長からは「これからはネットの時代!」とのことで、Gyaoの立ち上がりにも参加した。地上波にとって「ネットメディア」は既得権益を侵す敵? で、ドラマなど一切Gyaoには提供してもらえなかった。音事協グループ(芸能事務所系)やジャニーズ事務所(当時)も同様でタレントを出してくれず、グループ外のオスカープロモーション等、一部が協力してくれ、オリジナルドラマなど作った。ミッドタウン内にあるGAGAのスタジオからは「森田一義アワー 笑っていいとも!」のように独自で生配信も行い、自分も出演したりした。20年前は、まだネットフリックス等もなく、〝ドラマは地上波で〟の独占状態だった。地上波は免許事業でもあるが、当時のネットや配信は〝無法地帯〟的な捉えられ方をされ、動画はおろか、ジャニーズのタレントの写真でさえ長い間、掲載すら許されなかった。

 今思うと、Gyaoは画期的だったのだが、スタート時期が早すぎたのか。僕がGAGAを去って(宇野社長もその後退任された)GyaoをYahooに売却したことを知った。それから、再びU―NEXTを立ち上げ、今日に導くパワーには敬服するほかない。U=宇野(UNO)の意であり、宇野の次(NEXT)の一手がU―NEXTなのである。

 この件の延長線上に、その後のフジテレビやTBSの株買収問題が起こることになる。ある意味で地上波の現在の芳しくない状態は、この時に予見されていたのだろう。今は「TVer」はじめ、地上波も配信に力を入れているが、アメリカや韓国と比べてもイノベーションとしては手遅れになった感は否めない。

 GAGAに行って、数か月後に10本前後の製作映画を数百人の関係者、記者を集めて発表した。残念ながらその中からは半分くらいの映画しか創れなかったが。

 GAGAは元々、「洋画配給会社」で邦画に関しては主に「Vシネマ」的な小さいサイズでビデオリリースものがメインだった。そこに、いきなり1年で10本の新作映画をメジャー展開するというのは、今考えると無謀だった気がする。確かに企画はたくさんあったが、GAGA内にはメジャー邦画の経験者はほぼいなかった。結局、洋画の宣伝プロデューサーを中心に映画製作チームを作り、外部の製作会社・プロデューサーとの共同作業になった。

 3年程度しかGAGAにはいなかったのだが、僕の戦略不足は否めなかった。海外との合作等、チャンスは幾つかあったが、モノに出来なかった。僕がGAGAを出てから、GAGA&アミューズ&フジテレビで『そして父になる』(2013/是枝裕和監督/福山雅治主演)が製作され、カンヌ映画祭で審査員賞をもらえたことは嬉しかった。

 GAGAは今でも好きな会社だが、当時、10本程度の映画に関わったものの大ヒット作は残念ながら作れなかった。

 ただ『初恋』(2006/塙幸成監督/宮﨑あおい主演)は思い出深い。

▲1968年に発生した三億円強奪事件の実行犯である白バイ男は、女子高生だったという設定の小説を宮﨑あおい主演で映画化した『初恋』。60年代の若者たちの青春映画でもあり、孤独な女子高生のせつない初恋を描いた恋愛映画としても、胸がしめつけられるような印象を抱いた記憶が今も蘇る。小出恵介、柄本佑、青木崇高らが共演者に名を連ねている。宮﨑あおいの実兄・宮﨑将も兄役で出演していた。監督は、その後三浦友和、石田ゆり子共演の映画『死にゆく妻との旅路』で、新藤兼人賞2011金賞を受賞した塙幸成。2006年6月10日公開。

1 2 3 4

映画は死なず

新着記事

  • 2024.09.13
    アメリカ合衆国、内戦勃発!再び起こり得る〈南北戦争...

    10月4日(金)全国公開

  • 2024.09.13
    国立西洋美術館「モネ 睡蓮のとき 」観賞券

    応募〆切:10月10日(木)

  • 2024.09.12
    堤真一&瀬戸康史、大東駿介&浅野和之という2組によ...

    公演:東京、大阪、福岡

  • 2024.09.12
    谷村新司、堀内孝雄、元モーニング娘の安倍なつみ、や...

    水越恵子「Too far away」

  • 2024.09.12
    SOMPO美術館「カナレットとヴェネツィアの輝き」...

    応募〆切:10月10日(木)

  • 2024.09.11
    新選組・副隊長の土方歳三をニヒルな風貌と演技で天下...

    土方歳三の雛型を創り上げた栗塚 旭

  • 2024.09.05
    引きこもりの愉しみ─萩原 朔美の日々   

    第22回 キジュからの現場報告

  • 2024.09.05
    尾上松也、瀧内公美、段田安則らが織田作之助の『夫婦...

    東京、愛知、大阪公演

  • 2024.09.05
    今年4月、84歳で逝ったいぶし銀のような名バイプレ...

    佐川満男「今は幸せかい」

  • 2024.09.04
    上村松園の渾身の名作《雪月花》三幅対も公開!皇居三...

    9月10日(火)~10月20日(日)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial