24.10.02 update

第17回 【私を映画に連れてって!】 松田優作唯一のドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』にプロデューサーとして関わることになった打ち明け話

 社内での了解は取れそうも無く、脚本の早坂暁さんに会いに行った。テレビ界の大御所であり、吉永小百合主演の映画などの脚本も書かれていた。

 誰に聞いても「早坂さんに会いに行くなら、渋谷の東武ホテルに電話して!」とのこと。その頃、ホテル住まいとのことで、東武ホテルの代表電話番号に電話したり、FAXを送ったりして、やっとお会いできることになった。もちろん、ホテル1Fのロビー喫茶だ。

 苦い顔つきで「『熱帯夜』ねぇ、僕もホントのところはよくわからないけど、演出とキャスト間でいろいろ揉めたとか……」そして、ニコッとされて「でも、僕はビデオ化、反対しませんよ」

 次に、個人的に知り合いでもある桃井かおりさんに電話してみた。その頃はロス在住だっただろうか。「まぁ、いろいろあったけど私は良いわよ!」「ただ、優作がね……。まぁ今は、いないし……美由紀ちゃんが良ければいいんじゃない……」と。

 そして、初対面の松田美由紀さんに会いに行くことになった。

▲松田優作生誕60周年、没後20年を機に〝伝説の男・松田優作〟の最初で最後の公式ドキュメンタリー映画製作が始動した。映画は優作の生い立ちや、プライベートを掘り下げることなく、映像作品の中での〝俳優・松田優作〟の姿に焦点をしぼっている。数ある映像出演作品の中から、いずれの作品を映画の中で取り上げるか、大いに悩んだと筆者は述懐する。映画『SOUL RED 松田優作』製作発表、「SOUL RED Project」発表記者会見に、筆者は松田優作夫人の松田美由紀と共に臨んだ。


「あのう、優作さん主演ドラマの『熱帯夜』の件ですが、色々あったように伺っていますが……」と言ったところで

「待ってたのよ! 何故かこれまで、このドラマだけはビデオ出てなくて……出してよ、早く!」

 あっけなく、ハードルだった関門は開かれた。此方の用件は済んだので帰ろうとした時……。

「優作が亡くなってもうすぐ20年になるんだけど、一回だけドキュメンタリー映画をやりたいのね」

「そうですか……良いですね。伝説の俳優ですから。楽しみにしています!」

「河井さん、プロデューサーやってくれない?」

 予期せぬオファーに、大先輩で、敬愛する黒澤満さんの名前を出して「優作さんの映画の半分くらいは満さんがプロデューサーですし、マネージャー的な役割をやられていた……」

 と言ったところで

「満さんは、やらない! と言ってるのね」と返され、モゴモゴしてしまった。

 せっかく「熱帯夜」のビデオ化許諾をいただき、ホッとしていたのだが、「会ったことのない稀代の大スター俳優のドキュメンタリー映画を自分がプロデューサーをやるなんて……」と思いつつ、

「まずは黒澤満さんと会ってきます。やっぱり満さんがやるのが一番良いと思います」

 黒澤プロデューサーは意外な見解を言われた。

「河井さんは優作に会ったことがないんでしょ。それは良い。僕がこの映画やるとなると、やっぱり自分が関わった映画中心になるでしょ。映像の権利使用も自分の映画の方が簡単だし。客観的な視点が必要。是非、よろしく頼むよ」と。

 心の中で、「なるほど、そういう考えもあるか……」と一瞬、納得しかけたが、やはり、会ったことのない映画スターのドキュメンタリー映画を自分がプロデューサーをやるなんて……。しかも、松田美由紀さんとも一度会っただけ。松田優作フリークは僕の周りにもたくさんいるし……。

 美由紀さんに報告に行くと「でしょ! 満さんがそう仰るんだし、河井さんがやるしかないでしょ!」と、何だか、励まされているような、崖っぷちに立たされているような……。

 結局、監督候補も、たまたま知り合いだったこともあり、気が付くと、人生初のドキュメンタリー映画の製作に関わることになった。

▲ドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』のインタビューには、アンディ・ガルシア、黒澤満プロデューサー、脚本家・丸山昇一、脚本家・筒井ともみ、映画監督・森田芳光ら、映画製作の現場を共にした映画人だけでなく、香川照之、浅野忠信、仲村トオル、宮藤官九郎ら、リスペクトを表明する若い俳優たちが出演している。吉永小百合も音声だけだが出演。息子で俳優の松田龍平、翔太が、父・優作の影響力について語っているのも興味深い。

 

1 2 3

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!