25.05.01 update

第24回【私を映画に連れてって!】浅田次郎『地下鉄に乗って』、大沢在昌『新宿鮫』で体験した映画プロデューサーと原作者との密な関係

『眠らない街~新宿鮫~』(大沢在昌:原作/滝田洋二郎監督/1993)も著者の大沢在昌さんとのことは記憶に残っている。滝田洋二郎監督、脚本の荒井晴彦さん、そしてぼくの3人がどうしても映画の方向性で一致しなかった時期があった。本来の原作をベースに〝映画的〟な設定、ストーリーを目指す2人。それに対してフジテレビの社員でもあったぼくは「40歳刑事と20歳のロック歌手のラブストーリー」に拘った。  

 頭の片隅にはいずれ「ゴールデン洋画劇場」で15%以上の視聴率を獲ることも考えていたこともある。もちろん、興行収入10億円以上(当時の配収では5億前後)のノルマも。

 結果、映画の評価はある程度もらえて、真田広之さんが主演男優賞に輝いたりと、今でも『新宿鮫』が好きな人は多くいる。それでも、プロデューサーとしての自分にとっては配収5億円に届かない(4億円弱)初めてのメジャー公開映画になった。

 その後も小説の『新宿鮫』シリーズは大好評でずっと続くことになり、4作目の『無間人形』では直木賞にも。

 元々、大沢さんと会った頃は『無間人形』を執筆中だった頃かと思う。1作目の『新宿鮫』は言わば、登場人物の紹介も含めて展開するストーリーであり、2作目の『毒猿』の方が、単体としてはとても映画的原作だった。一読して「まず毒猿を映画に……」と思ったが、原作者からすれば4作目の執筆中で、順番として1作目からの映画化をやって、次に『毒猿』を、の思いは当然である。

 ヒロインのキャスティングでも躓いた。20歳のロックスターと40代のキャリア刑事との通常あり得ないラブストーリーを目指したので、どうしても本物のロック歌手を起用したくて探した。初めて会った時、「イケる!」と思ったが、彼女の個人的理由により、降板となる(後に彼女はNHKドラマ「新宿鮫・屍蘭」のヒロインになるのだが)。

 そう言えば、天海祐希さんにも会った。ちょうど宝塚月組トップスターになった頃だと思うが、宝塚歌劇団が許可することは当然なかった。もちろん、実際に好演してくれた田中美奈子さんには感謝している。

 大沢在昌さんには映画にも出演してもらい、ご本人は出来上がった映画も気に入ってくれた(と思う)。1993年の10月に公開したが、同年の直木賞に『無間人形』が選ばれ、授賞式に滝田洋二郎監督、真田広之さん、ぼくも招待された。その頃、「大沢オフィス」を立ち上げられ、会場で、宮部みゆきさんを紹介されたことを覚えている。

 問題はここからだ。僕はその年の夏休み公開映画『水の旅人 侍KIDS』(大林宣彦監督)の製作等で、てんてこ舞いの中、『新宿鮫』を並行してやっていた。7月に公開した『水の旅人 侍KIDS』は配収で20億円(興収40億円弱)を無事に超え(配収20億円がノルマ!だった)、その3か月後に『眠らない街 新宿鮫』公開となった。

『眠らない街』をタイトルに付けたのも若いカップルなどに訴求したかったからだと思う。『新宿鮫』だけだと男っぽいイメージだったので、何とか若い人に受けたい気持ちがあったのだろう。

▲大沢在昌のハードボイルド小説『新宿鮫』シリーズ。長編は『新宿鮫』、『毒猿 新宿鮫Ⅱ』、『屍蘭 新宿鮫Ⅲ』、『無間人形 新宿鮫Ⅳ』(直木賞受賞作)など12作におよぶ。映画『眠らない街~新宿鮫~』は、1993年10月9日に東映配給により公開。興行成績は振るわなかったものの、主演の真田広之は『僕らはみんな生きている』とあわせて日本アカデミー賞優秀主演男優賞を、滝田洋二郎は優秀監督賞を受賞した。ヒロインを務めたのは田中美奈子で、主題歌も歌っている。音楽を手がけたのは梅林茂。筆者とは86年の映画『そろばんずく』で出会い、92年の『病は気から 病院へ行こう2』でも組んでいる。その後、2000年のウォン・カーワイ監督『花様年華』など世界で活躍している。室田日出男、奥田瑛二、浅野忠信らも出演している。台本は決定稿まで何度も刷り直され、5、6時間かけて読んで面白い小説を、2時間サイズの映画にまとめる難しさを経験した、と筆者は言う。

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