連載

第14回『東宝映画スタア☆パレード』中丸忠雄&土屋嘉男 〝変身人間〟シリーズで滅びの美学を見せつけた名バイプレーヤー

 62年になって、『紅の空』(3月)で偽札づくりの首謀者、『吠えろ脱獄囚』(5月)で殺し屋、岡本喜八の『どぶ鼠作戦』(6月)で敵側の密偵隊長に扮し、ひたすら〈悪人役〉が続く中、東宝はいきなり中丸に真逆の役柄を与える。それは〝若大将〟シリーズ第三作『日本一の若大将』における、田沼雄一の〝先輩〟役だった。


 マラソン部ОBとして若大将らをコーチする〈善玉〉役に、中丸を悪者としか見られなくなっていた筆者は強烈な違和感を覚えた。しかし、これが好評だったのか、同じく福田純が監督した『ハワイの若大将』(63)でも中丸は、雄一が澄ちゃんと知り合うきっかけとなる先輩役(化粧品会社勤務というのもなんだか妙だった)を振られる。
 ようやく善玉・中丸が確立されたか、続く岩内克己監督『林檎の花咲く町』(63)でも、主人公の白川由美が赴任する高校の(それも善良な)同僚教師に扮した中丸。パターンを外したキャスティングに戸惑いを覚えた観客もさぞや多かったに違いない。


 三船敏郎主演『大盗賊』、〝国際秘密警察〟シリーズ『虎の牙』、『火薬の樽』、『鍵の鍵』で元の悪役に戻った中丸に、さらなる意外な役柄が待ち受けていた。『大盗賊』に続く無国籍ファンタジー活劇『奇巌城の冒険』(66)である。
 太宰治「走れメロス」を原作とするこの谷口千吉監督作で中丸は、三船=メロスが戻ってくるまで自ら人質を買って出る奇特な僧侶に扮し、またもやファンの期待を(いい意味で)裏切る。中丸はすでに、ひとつの型に収まる役者ではなくなっていたのである。


 そして、中丸忠雄以上に〝滅びゆく者〟が似合ったのが土屋嘉男だった。


 俳優座養成所時代、黒澤明から気に入られて『七人の侍』に起用。54年に東宝入社を果たした土屋が、狛江(泉龍寺地所内)の黒澤邸に居候していた話はよく知られる。
 同作の利吉や『用心棒』の小平など、理不尽に妻を奪われてしまう気の毒(どちらも自虐的)な百姓役のイメージが強い土屋だが、黒澤の盟友・本多猪四郎監督による『ガス人間第1号』(60)では滅び去るガス人間を悲壮感たっぷりに演じ、自身にとってはある意味、俳優としての方向性を決めた作品となる。

▲ガス人間の悲哀を八千草薫と共に演じた土屋嘉男 イラスト:Produce any Colour TaIZ/岡本和泉



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