第4回 北海道支社でのセールス四方山話

  映画業界ならではのセールスということで言えば、昔は映画館は、封切館があり、続いて二番館、三番館というような映画館システムがあった。封切館で3週間やると、われわれ映画セールスたちの言葉では〝ストーン落ち〟といって二番館での上映となる。そうすると、たとえば東映の『網走番外地』と松竹の『男はつらいよ』と東宝の『子連れ狼』といった、昨日まで封切館でメイン作品として上映していた映画が二番館では3本立てで上映され、しかも入場料金も1本で800円だったのが、抱き合わせ3本立て200円とか300円になってしまう。入場料金も含めてストーンと落ちるから〝ストーン落ち〟と言っていた。 それがすごく理不尽に感じられた。昨日まで1本800円の料金がとれたのに、いきなり3本で200円、300円になるのだから、封切館での興行収入が見込めなくなってしまう 。

『柳生一族の陰謀』の大ヒットにより、再び萬屋錦之介を主役の大石内蔵助に迎え、1978年に公開された『赤穂城断絶』。東映では幾度となく製作された〝忠臣蔵〟映画だが、大石内蔵助役と言えば、片岡千恵蔵、市川右太衛門の両〝御大〟が演じてきた大役で、錦之介にとっては、まさに〝役者の本懐〟といった心持で臨んだに違いない。千葉真一、渡瀬恒彦、松方弘樹、岡田茉莉子、三田佳子、丹波哲郎、芦田伸介、三船敏郎、近藤正臣、原田美枝子ら、『柳生一族の陰謀』同様のオールスターキャストがスクリーンを彩り、敵役である吉良上野介は金子信雄が演じるあたりが、『仁義なき戦い』の深作欣二ならではのキャスティングだろうか。藩の断絶から討ち入りまでが〝実録〟ふうに描かれ、討ち入り時の不破数右衛門(千葉)と小林平八郎(渡瀬)の一騎打ちは、本作を盛り上げる。また、脱落していく浪士の一人である橋本平左衛門夫婦(近藤&原田)の死も壮絶であった。錦之介は翌年にもテレビドラマ「赤穂浪士」で、再び内蔵助を演じている。©東映


 79年に『トラック野郎』のシリーズ9作目のとき、二番館での上映の要請があったが、『トラック野郎』は集客の限界も見えてきていたので、ジャッキー・チェンの『ドランクモンキー 酔拳』はどうだろうと提案した。つまり、まだまだ勢いのある『酔拳』をつけて、新作の『下落合焼とりムービー』という山本晋也監督の全編パロディとナンセンス・ギャグの新作映画をつけてロードショー館に売るのだ。『下落合焼とりムービー』は新作の封切作品だから、通常のロードショーの料金をもらうという形をとったら、これが大当たりした。『酔拳』を〝ムーブオーバー〟して、つまり上映館を変えて、封切館と同じ入場料金で上映期間を延長させたわけだから、本社から評価された。そこから〝ムーブオーバー〟という手法が始まったのではなかったか。
〝ムーブオーバー〟をもう少し説明すると、当時札幌東映で上映していた『酔拳』は、公開から3週間経っているものの、まだまだ集客が見込めた。だが、札幌東映では、次の公開作品が決まっていたので、そのまま上映を続けるわけにはいかない。そこで、映画館を変えて上映を続ける。これが〝ムーブオーバー〟である。洋画系のロードショー館に『酔拳』を付けて新作『下落合焼とりムービー』を売ったのだ。『酔拳』は、公開から3週間経っているが新作の『下落合~』を付けることで、封切館で上映を続けることができる。
 実はメインは『酔拳』だ。映画館としては『酔拳』が欲しい。セールスとしては、『下落合~』だけを売ろうとすると売れない。そこで、『酔拳』を付けて『下落合~』を売る。映画館としても異論はない。本当に大当たりだった。これは北海道支社が発案したセールスの手法だった。『下落合~』の全国配収における北海道支社の割合がやたらと高かったことからも、〝ムーブオーバー〟という手法が効果的だったことは確かだろう。『下落合~』の興行収入にも効果を上げたということである。

 こうして当時を振り返ってみると、セールスのあれこれが思い出される。次回も今少し、北海道支社でのセールスの話におつきあい願いたい。

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