25.04.24 update

グループ・サウンズ全盛の1967年、女性ソロ・シンガーとして〝一人GS〟風の編曲とサウンドで80万枚のセールスを誇った 中村晃子「虹色の湖」

 前述した同時代の歌手の紅白初出場は、黛ジュンが最も早く67年、小川知子が中村晃子と同じく68年、奥村チヨといしだあゆみが69年だった。中村晃子の対戦相手は同じく初出場の美川憲一だった。その後、「虹色の湖」と同じ作家陣でリリースした「砂の十字架」、「なげきの真珠」、「涙の森の物語」もヒットし、67年から69年にかけて中村晃子の姿は、テレビの歌番組でよく見かけられた。

 特に印象深く記憶しているのは、69年1月27日放送のフジテレビ系列「夜のヒットスタジオ」(放送開始は68年11月4日)だ。当時の司会は放送作家、タレントで〝マエタケ〟の愛称で呼ばれた前田武彦と芳村真理。番組の名物企画に毎回一人の歌手の最も相性の良い人物をコンピューターがはじき出す「コンピューター恋人選び」があった。

 この日のターゲットは中村晃子。コンピューターの結果が出る前に中村晃子は、好きなタイプとして前田武彦の名を挙げていた。コンピューターが、これ以上理想の相手はいないとしてはじき出した相手はまさしく前田武彦だった。その後、中村晃子は新曲「涙の森の物語」を歌い出すが、気が動転したのか突然泣き始めた。前田武彦もテレたようにただハンカチで中村晃子の涙を拭うしかすべがないのだが、中村晃子はまさに号泣だった。その後も、夜のヒットスタジオでは小川知子、いしだあゆみらが号泣する回もあり、〝泣き〟が売りとなって番組視聴率はうなぎ上りだった。当時の歌番組では、中村晃子はミニスカートや、ミリタリー・ルックのファッションにベレー帽姿などで出演していた。


 その後、また歌番組からは遠ざかってしまうが、73年にリリースしたカバー曲「あまい囁き」がヒットする。オリジナルはイタリアの男女のデュエット曲だが、73年発売のアラン・ドロンの語りとダリダの歌によるフランス語版カバーが世界的なヒットとなり、日本語版も製作されたわけである。中村晃子の歌で、語りは細川俊之だった。細川俊之の囁く語りは、アラン・ドロンよりも甘く響いた。「パローレ、パローレ、パローレ」のくだりが有名で、高校生だったぼくは、アラン・ドロンのフランス語バージョンのレコードを買ったことを憶えている。

 それから約7年後の80年、歌謡界で中村晃子の名前が三度浮上してくる。オリコン週間チャートでも4位まで上昇した「恋の綱わたり」だ。TBS系列の連続ドラマ枠木曜座「離婚ともだち」の挿入歌で、中村自身もクラブのママ役で出演していた。大原麗子、田村正和、藤竜也、津川雅彦、浅野温子らの出演による洒落たドラマだった。「木曜座」は、大人の愛の模様を描く都会的なラブストーリー・ドラマ枠で、数々のヒット曲も誕生させている。

 79年の十朱幸代、渡瀬恒彦、名取裕子、加賀まりこ共演の「愛と喝采」からは、ドラマにも出演していた岸田敏志(当時・岸田智史)が歌う「きみの朝」。同年放送の松坂慶子主演の「水中花」からは松坂が網タイツ姿で艶やかに歌う姿も話題になった「愛の水中花」。やはり同年放送の倉本聰脚本、大原麗子、原田芳雄、津川雅彦、石田えり、さらに桃井かおりも出演した「たとえば、愛」からは豊島たづみが歌う「とまどいトワイライト」(作詞:阿木燿子、作曲:宇崎竜童)。83年の多岐川裕美、近藤正臣、露口茂、萬田久子ら共演の「誰かが私を愛してる」では、ドラマにもメインの役で出演していた野口五郎の「19:00の街」といった具合である。野口はこの曲で2年ぶり通算11回目の紅白出場を果たしている。

 80年の「サンデー毎日」では、「ことしの紅白歌合戦は大あわて?!テレビドラマの主題歌が軒並みヒットする事情」なる特集記事も組まれた。それほどドラマから多くのヒット曲が生まれたということだ。ドラマのタイアップ曲がヒットチャートをにぎわす現代と違って、たとえヒットしても民放ドラマの主題歌をNHKで歌唱するには、制限があったという時代だったことが推察される。

 「恋の綱わたり」は、脚本も手がけた福田陽一郎の作詞で、三木たかしが作曲を、船山基紀が編曲を手がけている。主題歌である西村協が歌った「シー・ユー・アゲイン」も、ある程度ヒットしたが、中村晃子の挿入歌のほうがそれを上回った。30万枚を超えるヒットで、ザ・ベストテンにも2週続けて8位にランク・インしたが、中村晃子の紅白出場はなかった。


 中村晃子は、その後も女優としてテレビでは「不良少女と呼ばれて」、「スタア誕生」、「ヤヌスの鏡」といったいわゆる〝大映ドラマ〟、映画では五社英雄監督『鬼龍院花子の生涯』での仲代達矢演じる政五郎の妾の一人、根岸吉太郎監督、薬師丸ひろ子、松田優作共演の『探偵物語』などが記憶に残る。

 中村晃子の「虹色の湖」を聴くと、テレビの各局で連日のように歌謡番組が放送され、今も歌謡史に名を刻む数々の流行歌が生まれた想い出の時間へとぼくを連れていってくれる。そして、昭和40年代のヒット曲が、次々にぼくの中に浮かび上がってくる。

文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫

1 2

新着記事

  • 2025.12.05
    第31回【私を映画に連れてって!】野田秀樹、鴻上尚...

    文=河井真也

  • 2025.12.04
    日本男子バレーのスタープレーヤー、石川祐希選手の活...

    石川祐希選手の睡眠の秘密

  • 2025.12.04
    森美術館が凄いことになっている!現代アートの21組...

    12月3日~3月29日

  • 2025.12.02
    一見の価値あり、スイス人写真家が撮った占領下の日本...

    12月5日~3月3日

  • 2025.12.01
    【コモレバWEBマガジン・読者参加イベント】『私を...

    2026年1月23日(金)

  • 2025.12.01
    第38回【キジュを超えて】今、会いたい人─萩原 朔...

    文=萩原朔美

  • 2025.11.28
    今年の冬の思い出づくりは「箱根で過ごす」、いつもよ...

    冬の箱根のお楽しみ

  • 2025.11.28
    世界の玄関というべき「成田空港の京成」と「羽田空港...

    12月1日~3月1日

  • 2025.11.28
    第17回『東宝映画スタア☆パレード』岡田茉莉子&有...

    文=高田雅彦

  • 2025.11.27
    岩下志麻、周防正行、草刈民代、是枝裕和ら豪華ゲスト...

    12月14日、15日

映画は死なず

特集 special feature  »

<特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三屋清左衛門残日録」~時代劇にはまだまだ未来がある~

特集 <特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が...

藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残目録」の章

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松宗雄が語る誕生秘話〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

特集 松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松...

〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!