2024年6月、よこすか芸術劇場で開催された「OKAMURA TAKAKO CONCERT 2024 T’s GARDEN」に行った。急性骨髄性白血病という、昔だったら不治の病とされた難病を患ったが、復帰してコンサートもできるようになっていた。連れだった友人の推しもあったが、私はよこすか芸術劇場が好きで、定期的に行くホールだ。
岡村が難病を発症したのは57歳の時。新しいアルバムのレコーディング中に顔が変わるほど歯茎が腫れ、肩こりや腰痛に悩まされるようになった。仕事の疲れだろうと軽く考えていたが、旅行中の散歩で、突然足がつって歩くのも儘ならなくなった。健康診断に行く大学病院で血液検査を受けたところ、白血球の数値が基準の半分にも満たなかった。翌週も精密検査を受け診断されたのが、「急性骨髄性白血病」だった。10万人に2人という難病。今まで病気とあまり縁のなかった自分が、どうして?!という衝撃だったという。
病名を公表し、抗がん剤治療を受けた後、臍帯血移植の手術を受けた。以前同じ難病を体験した女子プロゴルファーから闘病生活のことを聞いたことがあったが、筆舌に尽くしがたい苦痛が伴う。何もなかったように笑顔でステージに立っているが、無菌室の辛い治療も想像できた。乗り越えられたのは、回復を願うファンから届いたたくさんの手紙や千羽鶴などのメッセージで、もう一度みんなの前で歌いたいという執念だった。
そして長期休養から約3年後2021年9月、ソロデビュー35周年と復帰を伝えるコンサート「Hello Again!」で、ステージに立った。けれども「コロナ禍」の真っ最中だったので、観客数も制限された。それから毎年、ステージの数を少しずつ増やしていき、昨年は千葉、北海道、神奈川、兵庫、広島、青森、岐阜、愛知、大阪、東京と10ケ所で元気な姿をみせた。
ステージに現れた岡村は、ふわーっとしたイエローの明るいドレスがとてもお洒落で、会場から、「かわいーい!」と声がかかると、「もう一回お願いします!」と返すところなど、茶目っ気があって微笑んでしまう。髪型も若いころから変わらないセミロングのストレートで、年齢のことを言ったら失礼だが、とても齢60を超えているとは思えない。美少女がそのまま大人になった歳の重ね方だ。ステージを左右に歩き2階、3階の観客に向かって大きく手を振りながら歌い続けてくれた。休憩では男子トイレが長蛇の列だった。
「夢をあきめないで」はいつ歌ってくれるのかなと思っていたら、イントロが始まった瞬間大きな拍手が起こった。観客も待ちに待っていたのだ。何度も聴いて元気をもらう曲だが、生の歌声を聴くのは初めて。「負けないように 悔やまないように あなたらしく輝いてね……」と懸命に歌う岡本を見ていたら、目頭が熱くなってしまった。この曲は、自分のもとを去っていく恋人に、悲しい気持ちと恨めしさをこらえて「頑張って輝いて」と送り出し、挫けそうになる自分を励ます失恋ソングだった。ところが、曲が独り歩きして、人生の応援歌になっていった。中学の音楽の教科書にも採用され、卒業式に歌われることも多いという。玉山鉄二主演の映画『逆境ナイン』(2005)では主題歌にもなった。
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