西田佐知子の、この人・この曲と言えば異論をはさむ余地もなく「アカシアの雨がやむとき」だろう。「アカシアの雨がやむとき」は、1960年にポリドール・レコードからリリースされ、ハスキーで退廃的ムードの魅力的な歌声は、60年安保闘争の挫折と敗北した無力感に打ちひしがれた若者たちの心に響き、安保闘争の映像のバックにはさかんにこの曲が流れた。現在でもニュース映像などで使用され続ける世相を映し出す昭和を代表する曲で、ミリオンセラーの売れ行きを記録している。
作詞は水木かおる、作曲は藤原秀行で、このコンビはその後も「エリカの花散るとき」、「東京ブルース」などのヒット曲を誕生させている。「エリカの花散るとき」は、西田が3回目の出場となったテレビ放送史上最高視聴率を誇る63年のNHK紅白歌合戦で、珍しく和服姿で披露しており、4回目の出場となった64年の紅白で歌唱した「東京ブルース」は、西田の歌手としての地位を確立した曲と言えるだろう。
西田佐知子は、美人歌手との賛辞も寄せられる都会的な顔立ちと、ハスキーな声質で「アカシアの雨がやむとき」で、一躍人気歌手の仲間入りをし、第一線の歌手として活躍を続ける。美人でハスキーな声質の歌手はなぜか長くは売れないという当時のジンクスを、西田佐知子は見事に破ってみせたのである。
西田佐知子の紅白初出場は61年で、歌ったのは「アカシアの雨がやむとき」ではなく、「コーヒールンバ」だった。アルパ奏者のウーゴ・ブランコの演奏で世界的にヒットした曲で、日本語歌詞をつけたカバーを西田が歌いヒットさせていた。92年の紅白では荻野目洋子が覆面歌手としての「YO-CO」名義でヒットさせ歌っている。また、2001年には井上陽水もカバーして話題になった。61年の紅白初出場組には、こまどり姉妹、ラテンの坂本スミ子、宝塚の寿美花代、村田英雄、ロカビリー時代に水原弘、守屋浩とともに〝三人ひろし〟と呼ばれた「雨に咲く花」をヒットさせた井上ひろし、坂本九、ジェリー藤尾、佐川ミツオ(後に佐川満男)がいる。
「アカシアの雨がやむとき」が紅白で披露されたのは62年の2回目の出場のときで、トリ前という順番だった。この年の日本レコード大賞では、村田英雄の「王将」とともに、ロングセールスが評価され特別賞を受賞していた。69年の紅白でも歌唱している。浅丘ルリ子主演、高橋英樹共演で映画化もされ西田も出演している。2002年にNHK-BS2で放送された「あなたが選ぶ思い出の紅白・感動の紅白」で、「もう一度聴きたい曲」として浅丘がこの曲を挙げ69年の映像が流された。奇しくも、浅丘がゲスト審査員として出場している回だった。西田と浅丘は独身時代から親しく、西田が関口宏と、浅丘が石坂浩二と結婚したのも共に71年であり、互いの新婚旅行先で合流する姿もテレビで放送されていた。石坂と関口がフジテレビ系列の「スター千一夜」の司会を務めていたことでの番組企画だとは思うが。
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