「女の時代・80年代」がテーマだったが、わずか15秒という短い時間の中で、女性の強さと美しさが表現された見応えのあるCMだった。ここに渡辺の「唇よ、熱く君を語れ」が流れると、まさに新しい時代の幕開けを感じた。テンポの良いこの楽曲は、多くの人の脳裏に刻まれ、約43万枚の累計売上を記録した。もちろん「LADY 80」の赤い口紅も売り上げを伸ばしたことだろう。
キャンペーンガールには副賞の一つに東宝映画への出演があり、松原は、『地震列島』(大森健次郎監督、新藤兼人脚本)、にカメラマン役で出演し、その後女優としてテレビドラマの出演や、視聴者参加型のバラエティ番組「探偵!ナイトスクープ」で、上岡龍太郎が初代局長の秘書役として出演、活躍の場を拡げて行った。
他の化粧品会社も負けてはいない。資生堂は、春のキャンペーンソングには竹内まりやの「不思議なピーチパイ」(80年2月5日リリース)で対抗した。CMにはデビューしたばかりの女優マリアン(当時メアリー岩本)が出演。さらにポーラ化粧品(当時)は、庄野真代の「Hey!Lady 優しくなれるかい」(80年2月1日リリース)をぶつけてきた。渡辺真知子、竹内まりや、庄野真代の参戦を3人の名前のイニシャルから、「3M」という称号がつけられた。1980年4月10日の「ザ・ベストテン」のランキングでは、2位「唇よ、熱く君を語れ」、4位「不思議なピーチパイ」、7位「Hey Lady 優しくなれるかい」と3曲ともベストテン入りしている。CMが時代を彩り、昭和ならではの忘れえぬ名曲になっている。
余談だが、この曲と同時期に、リクルートからフランス語の「仕事をする=travail」に由来する「とらばーゆ」が80年2月22日に創刊された。通称「男女雇用機会均等法」が制定されたのは1985年、翌年の4月1日から施工された。80年代の幕開けとともに、女性の活躍が期待される時代になったことを記しておこう。
今年9月、NHKのど自慢に出演する渡辺真知子をテレビで久しぶりに観た。妙高市制施行20周年記念の回で、最後のゲストの歌唱で「唇よ、熱く君を語れ」を聴くことができた。当時よりふっくらとした渡辺の歌声はさらにパワフルで、出場者と一体になってのど自慢を盛り上げていた。
渡辺真知子には、笑顔が似合う。年齢を重ねても元気な歌声を、これからも私たちに届けて欲しいと願いながら、画面の向こうの渡辺真知子にエールを送った。
文=黒澤百々子 イラスト=山﨑杉夫











