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1984年11月22日放送の「ザ・ベストテン」10位で初登場した生放送での、テレビで歌うことがなかったシンガー・ソングライターの貴重な歌声 井上陽水「いっそ セレナーデ」

 同年12月には2枚目のオリジナル・アルバム『陽水Ⅱ センチメンタル』がリリースされた。もちろん全曲、井上陽水の作詞・作曲である。「つめたい部屋の世界地図」「東へ西へ」「かんかん照り」「夜のバス」「神無月にかこまれて」「能古島の片想い」「夏まつり」「紙飛行機」「あどけない君のしぐさ」などが収録されており、このアルバムでぼくはさらに井上陽水の音楽にはまった。「能古島の片想い」を歌うためだけに友だちとフォークギターをもって能古島にも行った。能古島は博多湾の島で、福岡・姪浜港から船で10分程度。秋のコスモスの名所であり、『火宅の人』の作家・檀一雄が晩年を過ごした島としても知られている。「東へ西へ」は、92年に元シブがき隊のモッくんこと本木雅弘によりカバーされ同年のNHK紅白歌合戦でもソロで初出場し歌唱している。2004年には布袋寅泰がアルバム『YOSUI TRIBUTE』でもカバーしている。

 73年3月には森谷司郎監督、栗田ひろみ主演の東宝映画『放課後』の主題歌として「夢の中へ」が3枚目のシングルとしてリリースされ、陽水にとってはオリコンシングルチャートで初めて20位以内(17位)にランクインした。89年には斉藤由貴がハウス・ミュージックを採り入れシングルとしてカバーしている。陽水版のカップリング曲「いつのまにか少女は」も映画の挿入曲になっている。同年9月には4枚目のシングル「心もよう」がリリースされオリコンチャート7位のヒットとなった。カップリング曲の「帰れない二人」は、作詞・作曲ともにRCサクセションの忌野清志郎との共作だった。情感のあるいい曲である。

 そして同年12月1日には1年ぶりとなる3枚目のオリジナル・アルバム『氷の世界』がリリースされた。発売日当日、ぼくも福岡市・天神の福岡ビルにある日本楽器天神店(現:ヤマハミュージックリテイリング福岡店)に出かけたが、開店前だというのに『氷の世界』を求める客が殺到していたのを思い出す。「夢の中へ」や「心もよう」のヒットで井上陽水の名が認知された証だろう。

 陽水の代表作とも言える「氷の世界」、ライブでの歌唱頻度も高い「帰れない二人」、小椋佳が作詞を担当した「白い一日」、細野晴臣も参加している「心もよう」、作曲・編曲を星勝が担当し、星の所属するザ・モップスも本アルバムと同日にシングルリリースしている「あかずの踏切り」、ちあきなおみが自身のアルバム『ルージュ』でカバーしている「小春おばさん」などが収録されており、オリコンのアルバムチャートに100週以上ベスト10位内にランクインを続け、発売から2年後の75年8月には日本レコード史上初のLPセールス100万枚突破の金字塔を打ち立てた。74年の日本レコード大賞ではアルバム『氷の世界』は企画賞を受賞している。大賞の森進一「襟裳岬」の作曲の吉田拓郎、「精霊流し」で作詞賞を受賞したさだまさし、など日本の音楽地図が塗り替えられようとする兆しがうかがえる年だった。ちなみに授賞式に吉田拓郎がジーンズ姿で出席し話題になったが、陽水は欠席している。

 そのほかにも、シングルとしてリリースされた曲には74年「闇夜の国から」「夕立」、75年「御免」「青空、ひとりきり」、79年の「なぜか上海」、山口百恵への提供曲をセルフカバーした80年の「クレイジーラブ」、81年「ジェラシー」、ドラマ「ニューヨーク恋物語」の主題歌に使用された82年の「リバーサイドホテル」に「とまどうペリカン」、86年の「新しいラプソディー」、映画『少年時代』の主題歌「少年時代」、91年の「Tokyo」、ドラマ「素晴らしきかな人生」の主題歌に使用された93年の「Make-up Shadow」に「カナディアン アコーデオン」など数々の話題曲を陽水は生み出していった。



 「いっそ セレナーデ」は84年10月に23枚目のシングルとしてフォーライフ・レコードからリリースされた。フォーライフ・レコードは、75年に陽水、吉田拓郎、泉谷しげる、小室等が中心となって設立したレコード会社で、現役ミュージシャンが、しかも人気のフォークシンガー四人がレコード会社を設立するというので、当時、社会的にも大きな反響を呼んだ。

「いっそ セレナーデ」は陽水自身が出演したサントリー「角瓶」のイメージソングに起用され、オリコンシングルチャートでも最高4位を記録するヒット曲となった。

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