ラジオはいつの時代も人と人を繋いでくれる

ラジオが貴重な時代に嬉しい賞品

 やがて日本は戦争に突入。昭和二十年八月十五日のラジオによる玉音放送によって戦争は終った。

戦後は六大学野球にかわってプロ野球の人気が高まった。『エノケンのホームラン王』(渡辺邦男監督、48年)では東京下町で肉屋を開いているエンケン(榎本健一)がプロ野球好き。今日もラジオで巨人対阪神を聴いている。ひいきの巨人がリードしているので上機嫌。ところが途中でラジオが故障してしまいあとが聴けなくなり、がっかり。終戦直後はラジオの故障はよくあった。

 当時、ラジオは貴重品。下町の庶民の暮しを描いた成瀬巳喜男監督の秀作『おかあさん』(52年)には、町内の夏祭りのど自慢大会が開かれる場面があるが、一等の賞品はラジオになっている。

 松山善三監督のヒューマニズムあふれる『名もなく貧しく美しく』(61年)はろうあの物語夫婦(小林桂樹、高峰秀子)の物語。ある時、小学生の子供がラジオのクイズ番組に応募する。運よく当選し、賞品のトランジスタ・ラジオが届く。

 子供は大喜びでラジオを聴く。それを見て耳の聞こえない両親も幸福になり、音を聴き取ろうとするかのようにラジオを手でなでるように触る。ラジオが貴重な時代だった。

かわもと さぶろう

評論家(映画・文学・都市)。1944 年生まれ。東京大学法学部卒業。「週刊朝日」「朝日ジャーナル」を経てフリーの文筆家となりさまざまなジャンルでの新聞、雑誌で連載を持つ。『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京『断腸亭日乗』私註』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞、桑原武夫学芸賞)、『映画の昭和雑貨店』(全5 冊)『我もまた渚を枕―東京近郊ひとり旅』『映画を見ればわかること』『銀幕風景』『現代映画、その歩むところに心せよ』『向田邦子と昭和の東京』『東京暮らし』『岩波写真文庫 川本三郎セレクション 復刻版』(全5 冊)など多数の著書がある。

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