藤沢周平生誕90年、没後20年に当たる2017年には、藤沢周平 新ドラマシリーズ第2弾として『橋ものがたり』から3篇が制作・放送された。「小さな橋で」は、ドラマ「北の国から」の杉田成道監督が描く、新たな家族の物語で、東京ドラマアウォード2018作品賞、衛星・配信系ドラマ部門の優秀賞を受賞した。
2024年9月17日に時代劇専門チャンネルで放送される「吹く風は秋」は、監督を映画『HERO』や『マスカレード・ホテル』、テレビドラマ「29歳のクリスマス」や「古畑任三郎」シリーズなど大ヒット作を生み出した鈴木雅之が手がけ、脚本をオリジナル時代劇でも「鬼平外伝」シリーズ全5作、「闇の狩人 前・後篇」、「池波正太郎時代劇スペシャル 『顔』」も担当した金子成人が手がけた。主人公の老博徒を演じたのは、「鬼平外伝 老盗流転」、「闇の歯車」、「帰郷」、橋ものがたり「約束」、「鬼平犯科帳 血頭の丹兵衛」などのオリジナル時代劇でもおなじみの橋爪功。人の情愛の細かさを丁寧に演じて魅せている。
そして「小ぬか雨」は、時代劇の名匠・井上昭が北乃きい、永山絢斗と組んだ汚れなき愛の物語。井上監督ならではの〝情念〟の世界を存分に味わわせてくれる。
短篇集『橋ものがたり』は、その後も2篇が制作・放送されている。2022年に放送された「殺すな」は、その年の1月に亡くなった井上昭監督の遺作であり、井上監督が長年映像化を切望していた作品であった。井上監督の熱い思いに共鳴して中村梅雀、柄本佑、安藤サクラの見応えたっぷりの共演が実現した。24年には短篇集『橋ものがたり』の中でも傑作と名高い人気の一篇の初映像化、橋ものがたり「約束」が放送された。監督・脚本をオリジナル時代劇では「果し合い」、「小さな橋で」、「帰郷」の監督も務めた杉田成道が務め、メインキャストに歌舞伎界のホープである片岡千之助、多くのドラマ、映画で注目されている北香那、元宝塚歌劇団雪組トップスターで映像作品初出演となった望海風斗を起用し、たった一つの〝約束〟を心の支えに、江戸の町でひたむきに生きる若い男女の愛の結末を究極のラブストーリーとして描いてみせた。
橋のこちら側とあちら側、渡るべきか、また、渡りたくても渡れない人生の橋がある。〝橋〟を渡るとき、人々の人生は新たな展開を見せる。藤沢周平は、人々の人生の一場面を抒情豊かに〝橋〟に重ね合わせ見せてくれている。いずれの作品も、さまざまな人間が行き交う江戸の橋を舞台に、市井の男女の喜怒哀楽の表情を瑞々しく描いた佳作ぞろいである。派手な立ち回りなどないが、江戸の市井の人々の生活に向けられたまなざしこそ、藤沢周平時代劇の〝市井もの〟の味わいといえるだろう。