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NHK紅白に欠かせなかった数々の楽曲— 特集:作詞家・星野哲郎生誕100年、日本人を愛しみ、慰め、励まし続けた流行(はやり)歌の作家として抱き続けた矜持


 現在、ぼくが持っている数百枚のLPレコードやCDはほぼ洋楽で占められている。それも8割以上がロックである。唯一の例外は大瀧詠一が構成・選曲した『アキラ1』から『アキラ4』まである企画盤だけだ。アキラとはもちろん小林旭のことである。

 そんなぼくでも無数の歌謡曲のメロディを知っている。それなりに歌詞も知っていて、口ずさむこともできる。カラオケだって歌える。

 古い記憶を掘り起こすと、歌謡曲が壁紙だった忘れがたい場面がいくつもある。

▲左:星野哲郎と水前寺清子。水前寺の「チータ」の愛称は、小柄な水前寺を本名の民子(たみこ)から「ちいさなたみちゃん」と星野が呼んだことに由来する。水前寺は15歳で出場した「コロムビア歌謡コンクール」で2位になり、星野に声をかけられコロムビアで11回もレコーディングしたが、レコードデビューにはいたらなかった。その後クラウンレコードに移籍し「涙を抱いた渡り鳥」で念願のデビューを果たした。紅白歌合戦には1965年に初出場し22回連続出場しており、紅白の紅組司会を4回務めている。初出場で登場する際の、紅組司会の林美智子(NHK連続テレビ小説「うず潮」のヒロインで人気者となった)が紹介してくれた言葉が心にしみ、司会のときにはそのことを胸に歌手の紹介をしていると言っていた。緊張の極致にいる初出場歌手に対して激励となる歌手のいい部分を最大限にすくいあげるべく、司会者面談を念入りにおこなっていたときく。このことにも〝星野イズム〟のようなものが見て取れる。星野の葬儀では、船村徹と共に弔辞を読み上げた。
右:1964年10月15日発売水前寺清子「涙を抱いた渡り鳥」。星野哲郎の作詞だが名義は有田めぐむとなっている。星野が日本コロムビア専属歌詞のときに書いた作品であり、星野哲郎と名乗れない苦肉の策だったようである。作曲の市川昭介もコロムビア専属の作曲家だったため、いづみゆたか名義になっている。


 小学校の何年生だったかは覚えていないが、運動会の選手入場曲として水前寺清子の「三百六十五歩のマーチ」がかかったことがあった。走るのが好きだったぼくは「休まないで歩け~」の歌詞に妙に気分が高揚したものである。後年、初めてのパチンコで大当たりしたときにも、水前寺清子の景気のいい歌声が聴こえていた。つまり、ぼくにはすこぶる縁起のいい曲なのである。
 高校時代に好きになった女の子と初めて2人で喫茶店に入ったとき、店内に流れていたのは、レッド・ツェッペリンの「天国への階段」でも、デレク&ザ・ドミノスの「いとしのレイラ」でもなかった。なぜか北島三郎の「函館の女」。彼女と何を話したかは憶えていないのに、北島三郎が威勢のいいイントロのフレーズはしっかり耳に残った。

▲星野哲郎と北島三郎の若き日の2ショット。北島は1962年、日本コロムビアから「ブンガチャ節」でデビュー。63年に星野哲郎と行動を共にしクラウンレコードへ移籍する。同年のNHK紅白歌合戦に初出場を果たし、2013年には史上初の50回出場を達成した。まさに、演歌界の御大と言える存在である。


▲左:1965年3月10日発売の北島三郎「兄弟仁義」。作曲は北原じゅん。東映映画『兄弟仁義』の主題歌であり、星野哲郎が日本コロムビアからクラウンレコード移籍する際の北島とのエピソードが着想になったという。クラウンレコードへの移籍を決意した星野が公演中の北島の楽屋を訪ね別れを告げると、北島は「俺たちは義兄弟じゃないか」と星野と行動を共にした。
中央:1965年11月10日発売の北島三郎「函館の女」。作曲は島津伸男。13曲続く「女(ひと)」シリーズの記念すべき1曲目で紅白歌合戦でも歌唱。「女」シリーズは13曲すべて作詞を星野が手がけている。
右:1980年9月15日発売北島三郎「風雪ながれ旅」。作曲を船村徹が手がけた、津軽三味線奏者の高橋竹山の生涯を元にした楽曲で、第1回古賀政男記念音楽大賞を受賞した。紅白歌合戦では7回歌唱しており、大量の紙吹雪が舞う演出が定番だった。

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