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第18回『東宝映画スタア☆パレード』植木 等② 誰もが罹った〝森繁病〟を克服、〝無責任男〟として完全復活を果たした映画とは

 時を少し遡って、クレージー映画が末期に差しかかり、植木等の勢いも明らかに落ちてきていた1970年6月のある日。『日本一のヤクザ男』(古澤憲吾監督)を山形宝塚で見たときの劇場の空気は、いまだに忘れられない。
 客もまばらな館内では、クスリとも笑いが起きない。笑い声が起きたのは、ライバルの侠客・藤田まことの頭に雷が落ち、髪の毛が逆立った時、ただ一回。長年植木推しだった筆者も、「クレージー映画も、これで終わりか……」と、やるせない思いで劇場をあとにしたものだった。


 そうした状況の中、植木等が往年のパワーを取り戻したのが、同年12月公開の『日本一のワルノリ男』(坪島孝監督)だった。以前にも谷啓とのバディもの(※2)はあったが、ここで植木の相方に選ばれたのは加藤茶。所属するザ・ドリフターズの人気は、TVバラエティ「8時だョ!全員集合」(69)ですでに先輩のクレージーキャッツを超え、勢いは増す一方(※3)。そんな加藤を二枚看板に迎えて、植木は本当に大丈夫なのかと不安を覚えた筆者だったが、それはまったくの杞憂に終わる。


 加藤茶の参加は意外な相乗効果を生み、植木のテンションは急上昇。当代一の人気者を遥かに凌ぐ勢い=破壊力を見せたのだ。責任感溢れる田舎教師が、いきなりワルノリ男へと変貌する様は『くたばれ!無責任』(※4)の発展型であり、植木と加藤の物語が同時進行し、微妙にすれ違う展開も傑作『クレージー黄金作戦』(67)を思わせる面白さ。
 ここにきて無責任男は、有言実行男=モーレツ・サラリーマンでもなく、単なる秩序の破壊者でもない、新たなキャラへと昇華。劇場も67年以来の熱気(※5)に包まれ、加藤茶に負けなかった(!)植木等にファンも大いに留飲を下げる結果となった。

▲植木の勢いを象徴するかのような真っ赤なスーツ イラスト:Produce any Colour TaIZ/岡本和泉

 
 翌年の正月映画『日本一のショック男』(内藤洋子に代わって酒井和歌子が登場)まで、植木のボルテージは持続する。しかし、クレージー映画もいよいよ71年には終焉を迎え、植木等=無責任男は浅草東宝オールナイトでのブレイクまで、長い眠りにつくことになる。


※1 『不信のとき』は68年に、大映で田宮二郎を主演に映画化。ポスターの序列をめぐって永田雅一と揉めた田宮は、解雇の憂き目に。
※2 『無責任清水港』や『クレージーだよ天下無敵』がこれに当たる。
※3 ドリフに代って出演した「8時だョ!出発進行」でのクレージーはさすがに衰えを隠せず、筆者も見るのが辛かった。
※4 こちらではハッスルコーラを飲むことで、人格が豹変する。
※5 67年秋の『クレージーの怪盗ジバコ』あたりまでは、館内の盛り上がりが半端なかった。


高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。




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